31 ファーガス皇帝の思い描く未来
「ゼ・ムルブ聖国に行ってからだが、ルルと一緒にいれば、儂は少なく見積もっても三百年は生きられると思っておる」
食事中にファーガス皇帝がまた変なことを言い出した。
傷ついた人たちの治療が終わり、ルル様の私的な件も、なんとかけりがついたので、あと数日後に私たちは、ゼ・ムルブ聖国に向けて出立する予定になっている。
ファーガス皇帝はルル様と離れる寂しさのあまり、現実逃避からか、自分に都合のいい未来を妄想し始めたのだろうか?
「儂の病気や怪我はルルが癒してくれるだろう。そう考えると、死ぬとしたら老衰だけだ。儂は百年や二百年ほどで衰えるつもりはない」
それはあくまでもルル様ありきの話だから。ゼ・ムルブ聖国にやって来たとしても、ルル様がファーガス皇帝のそばにいるなんて誰もいってないし。
それに、百年でも長寿だって言われているのに、三百年も生きていたら化け物の類になっちゃう。いくらなんでもそんなこと絶対に無理でしょう?
「わたくしを過大評価されても困りますが、ファーガス皇帝陛下がずっとお元気なのは、喜ばしいことですわ」
そんな社交辞令を言ったらファーガス皇帝が真に受けるから。
でも……ルル様も最期を自然に任せるか、自身でコントロールするのかで未来は変わってくる。身体をすべて新品にできるルル様は、やろうと思えば寿命はいくらでも延ばせるだろう。
「したがって、儂にはルルのことを口説く時間がたっぷりあるということだ」
はあ!? また変なことを言い出したよこの人。ルル様が男だとわかって、諦めたはずだよね? 息子にするんじゃなかったのか。
心の中で罵っていた私の方を、ちらっと見たファーガス皇帝と目が合ってしまった。
「ローザにはわからぬかもしれんが、儂にとってルルはルルであれば見た目などどうでもいいのだ」
それほど愛が深いと言いたいのか?
「それに儂が想像していることが当たっていれば、百年もたったころにはさすがに絆されて、断るための下手な小細工などはせず、ルルからよい返事をもらえるのではないかと、多少の期待をしておる。もちろん、ルルが案じている、ウォークガン帝国のすべてをきちんと片付けて隠居することが前提だがな。波風がたたないように儂はそれまでルルへの気持ちも封印することにする」
ファーガス皇帝は、私たちの入れ替わりの件で、どうやらルル様の力のことに感づいたらしい。
それにしたって、普通に考えたらその頃には二人とも、お爺ちゃんとお婆ちゃんになっちゃうのに。
ファーガス皇帝の執着心がすごすぎてちょっと引く。
「百年後ですか……」
それにたいしてルル様は静かに笑ってみせた。な、なんでだ!?
ルル様、そこは完全否定するところじゃないの?




