23 悪人はどっち
マルセルと早朝に会ったあと、私たちはその日の予定にそって聖女の癒しを患者に施していた。
その休憩時間を狙って訪ねてきたのは、ルル様たちの話に出てきた事務管理官のケイリーだ。
「マルセル殿と面会されたそうですね」
「ええ、ですがマルセル様は精神状態が不安定なのか、陛下が悪いというばかりで、お話ができる状況ではありませんでしたわ」
ケイリーに向かってお前がやってきたことは全部知ってんだよ! って言いたいけど、今はまだ調査中なので、私は口をギュッとつぐむ。
「彼は何か変なことを口走っていませんでしたか?」
私の態度を訝しんだのかケイリーがそんなことを聞いてきた。
「いいえ、ただ、日記がどうとか独り言をおっしゃっていて……もしかしたら、そこに何か重要なことが書いてあるのかもしれません。ですが、コーデリア様にお聞きしたところお部屋には見当たらないそうなんです。あとはあるとしたら職場くらいだと思いますので、あとで探しに行くつもりでしたのよ」
「そうですか。マルセル殿は私の部下だったんです。本当にお二人には大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
そう言って頭を下げている姿は、あの話を知らなきゃ、実は腹の中で悪いことを考えてるとは到底思えない。
ただ、ルル様はマルセルの言葉をそのまま鵜呑みにはしていない。
その証拠に、ケイリーにも自身の潔白を証明する機会はつくってあげるつもりらしい。
「マルセル様の処遇が決まったら教えていただけますでしょうか」
「それはもちろんです」
ケイリーはそれだけ言うと部屋から足早に出て行った。
「わたくしたちも行きましょうか」
「はい」
私は自分の役割を頭の中でおさらいする。
だってここまできたら、巻き込まれた者として全部見届けたい。今更部屋でおとなしく留守番なんて無理な話だ。
ガチャ
ある部屋のドアをルル様がゆっくり開いた。
「だ、誰だ!?」
その室内で、マルセルの日記を探していたと思われるケイリーがこちらを見て驚いている。
「ケイリー様? いらっしゃったんですか」
「なんでルル様たちがここに?」
「わたくしたちはさっきお話した日記を探しに参りましたのよ。治療予定の方がおひとり、急な用事で別の日に変更になりましたから。時間が空きましたの」
なんて言っているけど、本当は誰もキャンセルなんてしていない。ひとりあたり一時間も時間をとってあるので、日記の件を終わらせてからでも、ルル様なら一瞬で治療できるから問題ないのだ。
「そうですか。ですがここにそんな物はありませんでしたよ」
「ケイリー様が先に探してくださったのですね。それにしても、ここにもないとなるといったいどこにあるのかしら」
「ルル様、本当にそんな日記が存在するんですかね。あの人ちょっとおかしくなっていたじゃないですか」
「そうなのよね」
お芝居のように決められた台詞をしゃべるのは、やってみるとすごく難しい。私、棒読みになってないかな?
「心当たりを探してみつからないならそうなんじゃありませんか。私はマルセル殿がそんな日記をつけているところを見たことがありませんし、それほど重要なことが書いてあるとは思えませんが」
「少し気になったので探していたのですけど、どこを探しても出てきませんし、きっと初めから日記なんてなかったのかもしれませんわね。お騒がせして申し訳ございません」
「いいえ。私はまだここで仕事があるので、すみません」
「お邪魔してごめんなさい。ルル様行きましょう」
私とルル様はケイリーを部屋に残して、治療室へ戻ることにした。
「やっぱりいましたね」
「そうね」
ケイリーがマルセルの日記を探していたことで限りなく黒に近づいた。
自白させるため、ルル様は次の手も考えているようだ。




