22 マルセルの告白
「ルル様が私と会ってくださったということは、十年前のことを覚えておいでだったのですね。殴られた時にはだめかと思いましたよ」
「ええ、あの時は申し訳ございません。ですがもう心配はいりませんわ。マルセル様のような方がなぜあんなことをなさったのですか」
「ルル様にはすべてお話いたします。それより先に、ローザ様には大変申し訳ないことをしました。本当に無事でよかった」
懺悔室でマルセルが私に向かって頭を下げるのが見える。
私はルル様に連れられて、王城の敷地内にある教会へ足を運んでいた。そしてその懺悔室にいたのがマルセルだ。
私たちがいる部屋と懺悔室の間には肩より上の部分に金属の格子がはまっていて、それより下の部分は壁で仕切られているので、マルセルから何かされる恐れはない。
それにしても、懺悔室にいるマルセルは本当にあの時のマルセルなんだろうか。
話し方も、ここから見えるその表情もとても柔和で、殺人未遂を犯した人間とはとても思えない。
そしてルル様の態度も不可解だ。
「たぶん私のターゲットは陛下だったんでしょう。ですがさすがにファーガス様に手を出したらコーデリアもどうなるかわかりませんからね」
マルセルの言葉がおかしくて意味不明だ。罪を犯したせいでおかしくなっちゃった?
「マルセル様の上司はケイリー様でしたかしら」
「そうです。私は窓もないような小さな部屋でただ時間をつぶすだけが日課でした。ケイリー殿はそれを資料整理の仕事だと皆さんにはおっしゃっていたようですが」
「そのことはファーガス皇帝陛下が裏をとっていますから、すぐに真実がはっきりしますわ」
私だけわからない話がどんどん進んでいく。だけどたぶん、いつも通り大人しく聞いていれば最後にはすべてがつながるんですよね、ルル様?
「私が一番悲惨に見えたんでしょうね。だからここ数年、私がファーガス様を恨むであろう事柄をずっと吹き込まれていましたよ。私自身は自分が哀れだなんて思ったことはそれほどないんですけどねえ。でも、私以外にその役目がふられると困りますから、ケイリー殿に疑われないほどには憤っているふりをしていました」
精神を病むような仕打ちを毎日受けて、それと自分の境遇がすべてファーガス皇帝陛下のせいだと思い込むように仕向けられた?
「自分では手を汚さないで、ファーガス様を排除しようとしたのだと思います。母上がやったことと同じですね。私の場合はケイリー殿でしたが、ファーガス様の周りにいるロイヤルヴァイオレットたちは念のため全員調べたほうがいいと思いますよ」
「最初にそれをわたくしに話してくだされば、マルセル様は罪人扱いされずにすみましたのに」
「件のロイヤルヴァイオレットのケイリー殿がルル様の補佐役をしていましたし、騒ぎを起こさないと我々みたいなロイヤルヴァイオレットから外れた者の言葉は届かないと思っておりました。ルル様がいらっしゃる今だからこそ、私にはチャンスだったんです。事件を起こしたことですべてを調べてもらえると確信していましたから」
思いだした。ケイリーってあの事務管理官だ! そんな悪い人だったの?
あっそうか、ルル様の『十年もあれば人は変わるのよ』は、マルセルではなくてケイリーに向けられた言葉だったんだ。
でもいつルル様はそのことに気がついたんだろう。




