24 今回は痛すぎですって
その部屋にはファーガス皇帝が正面に座っていて、その周りを近衛騎士が守り、向かい側にルル様とわたし、となりに今日の主役であるケイリーがいる。
「なぜお主がここに呼ばれたかわかるか」
ファーガス皇帝はケイリーに向かって質問した。声を掛けられたケイリーは視線を小さな日記帳に向けている。
それはファーガス皇帝がケイリーに見せつけるようにしてテーブルの上に置いたものだ。
「いいえ。なんのことだかわかりません」
「先日ローザがマルセルによって切り付けられた。こやつは見習いといってもルルの弟子だ。その力はすでに聖女と変わらん。その意味がお主にもわかるのではないか」
この場だけのこととは言え、自分の未熟さはわかっているので過分すぎる言葉はつらい。
「いいえ」
ケイリーは否定を繰り返した。
「聖女を傷つけられた神は怒り心頭のようだ。だから神罰がくだったのだろうな。それは犯人だけではなく、犯行を仕向けるように、けしかけた者にも及んだらしい。儂はとても残念だケイリー」
「陛下は事件に私が関与しているとおっしゃるんですか」
「自分では気づいておらんか。ローザ見せてやるといいケイリー自身に己の目の色を」
「目の色!?」
取り出した手鏡をケイリーは奪い取るようにして覗き込んだ。
「な、なぜだ!?」
驚くのも至極当然で、鏡に映ったケイリーの瞳の色は、それまでのロイヤルヴァイオレットと異なり、どう見ても真っ黒だった。
「こんなことはあり得ない。私はマルセル殿に聖女様を襲えなんて一言も言っておりません」
「では、お主の目の色をなんと説明するつもりだ。まあ、しらを切ったところで経緯はだいたいわかっておるがな。これに目を通して儂はとても驚いたぞ。日記帳にはマルセルが誰に何と言われたか、とても詳しく書き留めてあったからな」
「そ、そんなのはマルセルの欺瞞です。それにあいつは狂っていたんだ。だいたい私がファーガス様を裏切るわけがないじゃないですか。今まで血を吐く思いでファーガス様の手足となって働いてきたのに。マルセルの姑息な手段に貶められて、私ははらわたが煮えくり返りそうですよ」
テーブルに手をついて前のめりで主張するケイリー。
この人、自分の目の色が変わったせいで、焦っちゃったんだろうな。
自分で馬脚を露したことに少しも気がついていないようだ。
「落ち着いてくださいケイリー様」
「言わせてやれローザ。ケイリーにも言い分はあるだろう」
「ですが……」
ぐはっ
するとケイリーが突然血を吐き出した。
「大丈夫ですか」
自分にかかったらやだなと思いながらも、立場上、一応心配そうな態度はしておく。
だってしかたないよね。
言っちゃったんだもん『血を吐く』ってさ。
そのあとケイリーはお腹に手を当ててうずくまったから『はらわたが煮えくり返った』んだろう。
「なあケイリー。なんでお主の話は聖女から、儂を裏切った話に変わったんだろうな。これを読んでみろ」
ファーガス皇帝はケイリーの目の前に日記帳をバサッと投げた。痛みに耐えながらも、それを手にしたケイリーは目を見開く。
それも無理はない。
日記帳には、コーデリアがマルセルに向けて話した内容だけが事細かに綴られていて、ケイリーのことなど一切書かれてはいないのだから。
「マルセルの娘を思う気持ちはちょっと行き過ぎてると思わんか」
「私をはめたのか!?」
「それがどうしたというのだ。今までうまく爪を隠していたようだが、マルセルに面目をつぶされて、腹の虫がおさまらないか?」
さすがにこれ以上はやめてあげてー。
今日のルル様はサービス精神旺盛みたいだから、本当に爪がなくなって、顔がつぶれちゃうかもしれない。しかも腹の虫がおさまらないってどうなっちゃうの?
想像しただけで、自分も身体が痛くなりそうだ。
私が渋い顔をしていたら、ルル様もそれに気がついたのか、その後ケイリーの身体は変化することがなかった。
ただ容姿が変わるのとは違って、悪人とはいえ今のケイリーの状態はさすがに辛すぎるだろう。だからルル様、早く治してあげて。




