25 その洞察力、部下にも発揮できたら良かったのにね
「こやつがすべて白状するまでルルもローザも手出しはするなよ」
非情にもファーガス皇帝はそう言って、ケイリーに治療は受けさせなかった。なんて無体な。
その後、拷問を受けているのとなんら変わりのない状態だったケイリーは、マルセルにしていた仕打ちを洗いざらい告白した。
それはマルセルから聞いていたことと寸分も違いがなく、マルセルの証言に嘘はなかったと証明されることになる。
ケイリーはいつの頃からか、同じ兄弟だというのに臣下扱いという身分の差に憤りを感じていたらしい。
それとともに野心が芽生えたようだ。
ファーガス皇帝のそばで政に関わっていたこともあり、唯一王妃の子供であるファーガス皇帝が亡き者となれば、自分が一番皇帝の座に近いと思っていたらしい。
「同じ兄弟だというなら、ケイリーがマルセル様にしていたことのほうが、よっぽど酷いですよね」
「あの方はロイヤルヴァイオレットでなければ、ご自分の兄弟とは認めていらっしゃらないみたいなの。だからわたくしも同じだったのだけど、聖女という肩書があったから、ほかの方たちみたいに蔑まれたりはしなかったんだと思うわ」
「それでも初めて会った時には、ルル様に向けて愛情があったように思いますよ」
「わたくしはローザと違って純粋ではないのかもしれないわね。駒がひとつ手に入ったと、それを喜んでいるように見えていたもの」
いくつもの修羅場をくぐってきたルル様だからこそ、ケイリーの真の姿を感じられたのかもしれない。
それにルル様が知っていた十年前のケイリーとは、どこか変わっていたんだろう。
私には、本当にただ愛でているようにしか見えなかった。
私はニコリだと思っていたケイリーの微笑み。しかしルル様の目にはニヤリと見えていたんだろうな。
うーん。こんなことではまだまだ修行が足りない。もっと頑張らねば。
「待たせたな」
ケイリーが自白したことで、慌ただしく動いていたファーガス皇帝が、もといたこの部屋へ戻ってきた。
今回の件、もう一度すり合わせをしたいと、ルル様と私はここで待っているように言われたのだ。
私としてはいろんな意味でファーガス皇帝とは話をしたくないんだけど……。
「心中お察しいたしますわ」
「信頼していた者に裏切られたことか? 今回のことは考えを改めるいい機会になったしな、長い人生こんなこともあるだろう」
十年前は味方だったロイヤルヴァイオレットとの間に、いつの間にか綻びが生まれてしまっていたこと。
そしてロイヤルヴァイオレットではなくなってしまった人たちの中にも、マルセルのように自分を犠牲にしてまで、国の行く末を案じている者がいるということ。
十年前みたいに白黒はっきり分かれているならいいけど、すべてを見極めるのは難儀しそうだ。
「ところで……」
ファーガス皇帝が私をじっと見る。
「昔はそれほど生に執着していなかったんだが、ルルと出会って、世の中には儂の想像が及ばないような摩訶不思議なことがたくさんあることを知った。こんなに面白いことは楽しまなければ損だと思うからな。儂はまだ殺されるわけにはいかん」
摩訶不思議なこと、それは今日起こったケイリーへの神罰のことを言っているんだろう。
「それに夢の老後が待っておるしな。それまでにやらねばならんことが山積みだ。時間が惜しいから儂は仕事に戻るとする」
今回の件を考えてみても、身内に謀反をたくらむ者がいるようでは、その夢の老後もまだ先のことだ。
ちょっとだけなら同情してあげてもいい。
「そうそう、お主は頑張っておるのだろうが、どう足掻いても気高さが足りん。残念だったな」
は!?
「そんな表情をするようでは、まだまだ儂を欺くことはできんぞ。もっと精進しろ」
それだけ言ってファーガス皇帝は楽しそうに部屋から出て行った。
あぁ、ファーガス皇帝は自分の考えが間違っていないか、それをすり合わせるために、この部屋にやってきたんだ。
ルル様がルル様ではないことを、その目で確かめるためだけに。




