18 なんでこんなことに
「おかしい」
ファーガス皇帝がさっきから何やらつぶやいている。しかし、ルル様と私はそれを完全に無視して食事に集中していた。
「やはりおかしい」
おかしい、おかしいってうるさいけど、おかしいのはどこぞの皇帝様の言動だろ。
私はとっくの昔に、ファーガス皇帝に敬意を払うことはやめている。それはもちろん頭の中だけだけど、いろいろあって私はファーガス皇帝と当分は最低限しか口を聞かないと決めていた。
それはルル様も同じだ。
今回のことは、事前に了承も得ず勝手にファーガス皇帝が私の名前を使ったことで、コーデリアとのこともそうだし、現在進行形で迷惑を被っている。なので、楽しくおしゃべりしながら食事なんてするつもりがない。
本当は食事だって断るつもりだった。ルル様から事務管理官にお願いしてもらったのに『ルル様のことが絡むと誰の言うことも聞きません』そう言われてしまい、結局しかたなく今日も同じ席についている。
「ルルがいつもと違う……」
ルル様はこうなってしまった以上仕方がないと私を宥めつつも、ファーガス皇帝のやり方に怒ってないわけではなかった。
だから現在このなんとも言えない状況なんだけど、未だファーガス皇帝に反省している様子は見られない。
「ごちそうさまでした」
食べ終わるとすぐに私たちは席を立った。
ファーガス皇帝をその場に残したままだけど、とっとと部屋へ戻るために部屋を出ようとした。すると、さすがにまずいと思ったのかファーガス皇帝が珍しく私たちを追いかけてきた。
多忙なファーガス皇帝は食事のあとも仕事が詰まっていて、大好きなルル様との時間は夕飯の時だけだ。その大切な時間が、自分のせいで台無しになってしまったことに今更焦っているようだ。
誰が見ているかわからないし、私たちは会話をするつもりがないんだからそれ以上近づかないでくれ。こうなったのもファーガス皇帝の自業自得なんだから。
「申し訳ございませんが、わたくし今日は疲れておりますの。早く部屋でやすみたいのですが」
「そ、そうか……?」
困惑したファーガス皇帝をその場に置き去りにして私たちは退出した。
しばらく無言のまま二人で歩いてファーガス皇帝の元から十分距離をとってから、私はルル様に話しかけた。
「かわいそうでしたかね?」
「仕方がないわ。わたくしはローザのことが心配ですもの」
ルル様は私が貴族たちから酷い扱いを受けることがないように、気にかけてくれていた。
まだ聖女ではない私は貴族からみれば平民と同列だ。それなのにファーガス皇帝のお気に入りともなれば嫌みのひとつも言いたくなるだろう。
「何でこんなことになっちゃったんでしょうね」
ため息をつきながら歩いていると、前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あれはコーデリア?
「ここは関係者以外進入禁止です。お戻りください」
「そこを通してくれ、私はただ話をしたいだけだ」
「私のことはもういいのよ、お父様」
「そういうわけにはいかない」
コーデリアの父親マルセルが衛兵となにやらもめているようだ。
聞こえた内容から推測すれば、私に文句を言いにきたんだと思う。
「あ!」
立ち尽くしてる私たちに気がついたコーデリア。
するとマルセルが私たちの方へと大股でずかずかと近づいてきた。コーデリアを傷つけたことならいくらでも謝るけど、他人もいるこんな廊下で大騒ぎするのではなくて、できればちゃんとした機会をつくってほしい。
とにかく私は目立ちたくないのだ。そう思っているとマルセルの歩く速度が速くなる。
「私の家族をめちゃくちゃにしおって」
あまりのマルセルの形相に恐れをなしたため、私は一瞬目をそらしてしまい、その後に何が起こったのか、すぐには気づけなかった。
どういうこと? 私は現実が受け入れられずに頭が真っ白になる。
なぜなら、私の胸にマルセルが手に隠し持っていたアイスピックのような棒状の刃物が突き刺さっていたからだ。
「「きゃああああー」」
マルセルをとめようとして一緒に走ってきたコーデリアと、私の悲鳴が重なって廊下に響いた。
まさかこんなことになるなんて……。




