17 何もできなくてごめんなさい
「競争相手に命を狙われたりしませんかね?」
「それは大丈夫。貴族たちはローザに手を出した時点で物理的に首が飛ぶことは理解しているはずよ。ファーガス皇帝が敵対者にたいして冷酷だということは、後継者争いの時に十分伝わっているわ」
「そうだといいんですが……それでも心配です」
「そうね、何かあるといけないから、油断はしないようにしておくわね。悪いようにしないなんて言いながら、ローザには迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい」
「それはもういいんです。結局ルル様に頼ってしまってすみません」
午前中の予定が終了したルル様と私は、これから昼食をとるために食堂へと向かっている最中だ。
部屋から移動していると、こちらを睨みつけながらすごい剣幕でコーデリアがそばまでやってきた。
今までずっと私に付きまとっていたのに、今朝は姿をあらわさなかった。だけど、その理由は私とファーガス皇帝のことしか考えられない。
いまの態度を見てもそれは間違いないだろう。
「裏切り者! 貴女みたいに酷い人間が人を救う聖女になんてなれるわけないわ」
「コーデリア様……」
「申し訳ございません……こんなことになるなんて思いもしませんでしたので」
私が言葉に詰まっていると、代わりにルル様がコーデリアに謝罪した。
ファーガス皇帝自身が、私のことをお妃の有力候補だと言いふらしているんだから、コーデリアを応援するという約束を、私が破ったと思うのは当然のことだ。
私がどんなに言い訳をしたところでコーデリアが納得するはずもない。
「うるさい! 自分だけ抜け駆けするだけじゃなくて、私の足も引っ張るなんて……ぐすっ」
コーデリアは涙ぐんでしまい最後のほうは声にならなかった。なんて慰めたらいいのかわからず、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。
「王妃の……候補資格が……ずっ……なんで……ぐすっ……十五歳以上なのよ」
「ああ、コーデリア様は十歳だから……」
「私は十二歳ですわ!」
十二歳だったんだ。
それでも年齢が足りない。ファーガス皇帝はいますぐ自分に釣り合う女性から選ぶつもりで、年齢に制限を設けたらしい。
それはファーガス皇帝が勝手に決めたことで、そのことに私は関わっていないんだけど……。
コーデリアは一度私に視線を向けたあと、すぐにそらした。
「貴女なんか大嫌い!」
私の方は見ずにそう叫んだ。
でも、それは私に向けられた言葉。そう言われてもしかたない。
目を輝かせてファーガス皇帝のことを語っていたコーデリア。この小さな少女の悲痛な叫び声に私の胸は痛んだ。
それ以上にコーデリアはつらい思いをしているのだろう。
それでも、すべての恋が成就するわけではない。あのファーガス皇帝ですらルル様を諦めるしかなかったのだ。そのあと恋とは違う執着心で再び追いかけてはいるけど。
「何もしてあげられなくて、本当にごめんなさい」
私には謝ることしかできない。他に何を言ってもいまは傷つけるだけだろう。そんな私をコーデリアが訝しそうに見つめる。
「それでも、ローザがファーガス皇帝陛下のとなりに並ぶことは絶対にありません。それだけは間違いありません」
「ぐすっ」
涙が止まらないコーデリアに、私がハンカチを渡そうとして、拒否される。
「今ここでコーデリア様を期待させるようなことは申し上げられません。ですが、ファーガス皇帝陛下に年齢の件は取り下げてもらうようにお話ししてみます。あとはコーデリア様次第ですわ」
「――そんなこと言っても、どうせまた嘘なんでしょ。もう誰のことも信じない」
ルル様の提案に聞く耳をもたないまま、コーデリアは走って行ってしまった。
「泣かせてしまいました……」
「私たちにはどうしようもないことだわ。結局はファーガス皇帝がお決めになることだもの」
コーデリアの初恋は儚く散ってしまいそうだけど、次の恋こそはうまくいくように祈っておこうと思う。
見習い聖女の祈りでも少しは神様に届くだろうか。




