16 私を巻き込むのは本当にやめてほしい
ファーガス皇帝は一刻も早く隠居するため、精力的に動き出した。
まずはお妃様探しをするらしい。でも、ルル様から先代のような問題が起きないように、ずっとひとりを愛し続けるようにと言われているので、そう簡単には決まらないだろう。
二十年後も私はゼ・ムルブ聖国にいるはずだから、ファーガス皇帝が代替わりを終えて老後を過ごすためにやってくれば、顔を合わすこともあるだろう。
あの人はゼ・ムルブ聖国に来てからもいろいろ引っ搔き回しそうだから、時間が掛かってくれた方がありがたい。
それよりも……。
「そうと決まったら儂はルルの邪魔はせんからな。むしろ応援しておる」
そう言って気を利かせたつもりのファーガス皇帝は、私とルル様の部屋を別にはしてくれなかった。
ルル様が男だと知ってしまった以上、今まで通りには接することはできない。
もし本当にルル様が性別を偽りながら、今までそんな目で私を見ていたとしたら……うん、男性不審がひどくなるな。
どうしてもルル様から距離をとってしまう私にルル様が優しく微笑みかけた。
「心配しなくてもわたくし産まれた時からずっと女ですから」
「本当ですか? 私を気づかっているわけじゃなく?」
「本当に本当よ。ああでもしないとファーガス皇帝陛下に諦めて貰えないんじゃないかと思ったの。だから身体を改造しただけなのよ」
「だったらよかったです。すみません変な態度をとってしまって」
ルル様には変身能力があるんだから、男になることだって可能だった。
今現在は女性なんだろうか。気になってルル様の胸元に目がいってしまう。
「わたくしこそ先に話しておかなくてごめんなさいね」
それは私が驚くところを見たかったんですよね。ちゃんとわかってます。
とりあえず、安心した私はルル様の向かい側のソファーに座った。
「それにしてもファーガス皇帝ってすごい人ですね。ルル様が男性だってわかった時にも、全然びっくりしていませんでしたよ」
「まったく驚かなかったわけではないと思うの。だけど、あの方は昔からあんな感じなのよ。あまり物事を深く考えないところがあって、命を狙われて危険に冒されている時も『人生が百年か二十年かの違いだ。生きている間は楽しまないと損だからな』そうおっしゃっていたわ。それが本心か、運命に立ち向かうため、自分に言い聞かせていたのかはわからないけれど」
たぶんそれは本当に本人が言っている通りなんだと思う。
だって、ルル様が男だって知った時の顔、あれは絶対に楽しんでいた。
皇族としても皇帝としても、それは賢い生き方だと思う。―――そう良い意味で捉えてたのに、それほど時間がたたない間に、私は、そう思っていたことを後悔することになる。
それは自分で自分をぶん殴りたくなるほどに。
なぜかって?
「名前だけ借りただけだ。気に入ったとしても、ルルのものに儂は手出しはせんぞ」
悪びれもせずにそう言ったファーガス皇帝。自分よりこいつを殴りたい。
どうして私がこんなに憤慨しているかというと、なんとこの阿呆がお妃選びをするために私を餌に使ったからだ。
ルル様に振られて、本格的に相手を探し始めたことを大々的に告知したのは別にいい。
それが、よりにもよって、今現在、有力候補としてが私が頭ひとつ抜きんでていると触れ回りやがった。
それにはちゃんとした理由があるんだけど私自身は納得していない。
今までファーガス皇帝は、ルル様のことがあって女性とは接触をしてこなかった。
だからお妃候補に挙がってきた令嬢たちが、実際にはどんな人格なのかわからないそうだ。
中にはファーガス皇帝のことを慕っているわけでなく、ヴィクトリアみたいに王妃になりたいだけの令嬢も含まれているだろう。
そういうことも確認するために、どんな些細なことでもいいので、令嬢たちの情報が欲しいと一緒に通知したのだ。
それでなぜ私が餌なのかというと、ファーガス皇帝一番のお気に入りである私を貶めるために、捏造した情報を流す者が必ず出てくるそうだ。そういった令嬢や陣営を排除するためのおとりにするらしい。それは私だけに限ったことではなくて、誰かの醜聞を嬉々として進言してきた者は候補から外すようだ。
「ファーガス皇帝陛下はルル様がお好きなんですよね。だったらなんで私なんですか」
「ルルの悪口を言う者がいたら儂が耐えられそうにないからだ」
「だからって……」
落胆する私にルル様が手を握って励ましてくれた。
「こんな横暴見過ごせませんよね。ルル様もそう思いますよね?」
「ローザには申し訳ないのだけれど、ウォークガン帝国を盤石な体制にすることは世界の平和にもつながるのよ。それにはファーガス皇帝陛下のお相手もそれなりの方でないと困るの。今回だけは我慢してもらえないかしら」
うー。ルル様に頭を下げられてしまっては、拒否できません。
泣く泣く私はファーガス皇帝の駒になることを承諾した。




