九節 成長
高学年になったある日のこと、旭は自分の身体に奇妙な違和感を覚えた。
胸の奥が、かすかに痛む。
指で探ってみると、そこにはコリコリとした小さな「しこり」があった。
原因は分からなかったけれど、そのまま放置することにした。
けれど、そのしこりは日を追うごとに、少しずつ主張を激しくしていく。
気になって服の上から触れてみる。硬い。
自分の内側からじわじわとせり出してくるその異物が、
不思議で、そして言い知れなく不気味だった。
(なんだろう、これ……)
ちょうどその頃から、あんなに理不尽で大嫌いだった妹の存在が、
不思議とそれほど嫌じゃなくなっていた。
二段ベッドの上の段、私たちは狭いベッドで一緒に寝ることが多くなった。
夜の暗闇のなか、親に聞こえないようにひそひそ声で話し、
くすくすと言い合いながら、いつの間にか眠りにつく。
漫画の話や、アニメの話をした――ような気がする。
実は、その時間に何を話し、何をしていたのか、細かいことは何一つとして覚えていない。
ただ、世界のすべてが静まり返ったその時間が、なんとなく好きだった。
私のなかにある何かが、静かに満たされていくような、妙に心地良い夜だった。
けれど、旭のそんな平穏とは裏腹に、胸のしこりは冷酷に大きくなっていった。
左側から始まった異変は、やがて右側の胸にも同じように現れた。
そしてある日、旭はハッとした。
(これ……成長してるんだ。女の子になろうとしてるんだ……?)
気づいた瞬間、背筋に強烈な寒気が走った。
旭は、髪を短く切り、大好きなピンクを捨てて青を選び、
決してスカートを履かなかった。
「女の子」であることが、嫌だった。
なぜだか自分でも理由は分からなかったけれど、
女という属性を身にまとうことが、心の底から酷く嫌悪を覚えるほどに嫌だったのだ。
それなのに、現実の肉体は旭の意志を完全に無視して、
容赦なく「お前は女だ」という事実を突きつけてくる。
鏡の前に立つ。
望んでもいない、拒絶してやまない「女」へと変貌していく自分の身体が、
すぐ目の前にあった。




