五節 注視
それからも、皇女は何かを思いつくたびに僕を呼んだ。
服を着せられることもあった。
髪に何か飾りをつけられることもあった。
僕には、彼女が何に対してそんなに心を躍らせているのか理解できない。
でも、皇女はいつだって心底楽しそうだった。
ある日のこと。
皇女が僕の目の前にちょこんと立った。
「かいちゃん、こっち向いて」
言われた通りに顔を向ける。
皇女は少しだけ後ろへ下がり、じっと僕を見つめた。
それから、また歩み寄ってくる。
「もうちょっと右」
僕が指示通りに少し動く。
「そう!」
また離れる。
彼女が一体何を試みているのか、僕にはさっぱり分からない。
「……何してるの」
「見てるの」
「何を?」
「かいちゃん」
僕は言葉を失って黙り込んだ。
皇女は、ただただ楽しそうに笑っている。
「かわいい」
「……そう?」
「うん!」
それから、また少し角度を変えられた。
「こっち」
動く。
「もう少し」
動く。
「うん。いい感じ!」
僕は、皇女が満足するまでその場に佇んでいた。
しばらくして、尋ねてみる。
「もういい?」
「まだ!」
「……」
「あとちょっとだけ!」
僕は小さくため息をついた。
その様子を見て、皇女がころころと鈴を転がすように笑った。
「かいちゃん、面白い」
「……何が」
「そういうところ」
やっぱり、僕にはよく分からない。
でも。
――嫌ではなかった。
皇女が輝くような笑顔を見せている。
それを見つめていると、僕もそのままの自分でそこに存在していられた。
それから少しして。
皇女が、ふと思いついたように目を輝かせて言った。
「回って!」
「……なんで」
「見たいの」
「……」
僕は皇女の顔をじっと見返した。
いかにも期待に満ちた、まっすぐな瞳。
静寂の後。
僕は一度だけ、その場で静かに身体をくるりと回してみせた。
着せられた服の裾が、ひらりと空間に揺れる。
その瞬間、皇女の目がパッと輝いた。
「かわいい!!」
僕は動きを止めた。
「……もういい?」
「うん!」
皇女は本当に嬉しそうに頷いた。
僕には、やっぱり何がそんなに素晴らしいのか分からない。
でも。
皇女が笑っている。
それなら。
もう一回くらいなら、また付き合ってあげてもいいかなと思った―――。




