四節 外出
「お嬢、出かけたい!」
皇女がそう声を弾ませると、お嬢はふっと顔を上げた。
煎茶色の美しい長い髪が、肩から背中へと柔らかく流れている。
腰の少し上まで伸びた髪は左右が丁寧に編み込まれてまとめられ、
その隙間には可愛らしい小さな飾りが覗いていた。
白いフリルのヘッドドレス。
白と淡い色彩を基調とした、気品の漂うクラシカルなメイド服。
胸元には、存在感のある大きなリボンが結ばれている。
「どこへ行くの?」
「まだ決めてない!」
「また?」
「うん!」
皇女が胸を張って嬉しそうに笑う。
お嬢はくすりと微笑み、小さく息を吐いた。
「じゃあ、とりあえずお着替えからにしましょうか」
「はーい!」
皇女はとびきり素直な返事をした。
着替えの最中も、その頭の中は行きたい場所のイメージでいっぱいだった。
「あっちも行きたいし、こっちも見たいし……」
「ふふ、欲張りねぇ」
「だって、せっかくお出かけするんだもん!」
お嬢は呆れつつも愛おしそうに笑いながら、皇女の乱れた髪を優しく手際よく整えていく。
やがて、すっかり支度が整った。
パタパタと足音を響かせて玄関へ向かう。
そこには、すでに一人の男が待機していた。
艶のない黒い髪。 無造作に流れた長めの髪が、その鋭い目元を覆うようにかかっている。
冷徹な光を孕んだ赤い瞳が、こちらへやってきた皇女を静かに捉えた。
一見すると細身に見えるものの、その服の下には隙のない固くしなやかな骨格が潜んでいる。
ただそこに立っているだけで、常人ならば気圧されて退いてしまうほどの凄絶な圧を放っていた。
けれど、皇女にとっては見慣れた日常の光景に過ぎなかった。
「行こ!」
男は言葉を発することなく、短く顎を引いて頷いた。
皇女は弾むような足取りで重厚な扉へと向かう。
「行ってきます!」
「お気をつけて」
お嬢が温かな声を添えて見送る。
「うん!」
男が影のように、そのすぐ後ろへと従った。
皇女の頭の中は、もうすでに屋敷の外に広がる世界への期待でいっぱいだった。
今日はどんな出会いがあるだろう。
どんな素敵な光景が見つかるだろう。
何か心を躍らせる「萌え」や、面白いものが待っているかもしれない。
そう想いを巡らせるだけで、一歩踏み出す足取りはどこまでも軽やかだった―――。




