三十四節 相違
その日、郵便受けに厚みのある封筒が届いていた。
差出人は祖母。 中に入っていたのは、現金だった。
「生活の足しにしてください」
添えられた紙には、そう書かれていた。
旭は嬉しかったものの、そのお金をどう扱うべきか分からなかった。
バイトで得たお金はいつも芝居に関する費用に充てており、
生活費として現金を使った経験がなかったからだ。
旭は、その子に相談した。
「最近は調子もいいし、買い物にでも行きましょう!」
少し離れた街へ、二人で電車に乗って向かった。
彼女が好むデザインの服がずらりと並ぶ店へ辿り着く。
「ここの服、一度着てみたかったのよね!」
旭は促されるまま、店内へと足を踏み入れた。
あの子が楽しそうに服を選んでいる。
久しぶりに外へ出た彼女の表情には、生気が満ちていた。
手元の封筒が、少しずつ薄くなっていく。
帰りがけ、祖母の家へ立ち寄ることにした。
ちょうど通り道にある駅だったため、顔を見せがてら、
直接お礼を伝えようと考えたのだ。
祖母は二人を暖かく出迎えてくれた。
「よく来たね。生活はどうだい?」
「いろいろ大変だけど、一人じゃないから」
旭は短く答えた。
だが、大量の買い物袋を目にした瞬間、祖母の目つきが変わった。
「おばあ様のおかげで、良い息抜きができました」
その子が笑顔で言った。
すると祖母は、珍しく険しい表情を浮かべた。
「渡したお金は生活費であって、遊びに使うためのお金じゃないんだよ?」
旭には、その言葉の意味がすぐには理解できなかった。
日々の食費や家賃といった生活費の多くは、
相手の両親からの仕送りで賄われていたからだ。
そのため「生活費」と言われてもピンとこなかった。
これまでの家庭環境も影響していたのかもしれない。
家の中では「何もしないこと」が正解だった旭にとって、
それが初めて突きつけられた現実の手触りだった。
彼女が嬉しそうな顔をしてくれれば、それで十分だと思っていた。
けれど、祖母は怒っている。
胸の中で膨らむ矛盾を抱えたまま、旭はひたすら頭を下げ、家路についた。
「気にすることないよ」
隣でその子が言った。
「今度、一緒に撮影会をしようよ! きっと楽しいから」
満足そうに浮かべた彼女の笑顔を見るのは久しぶりで、
旭は救われるような思いで頷いた。
手元にあった封筒は、その日のうちに空になっていた。




