三十三節 夜道
旭は、投げかけられた言葉の意味をすぐには理解できなかった。
「ねぇ、なんで答えないの?」
彼女が責めるように言った。
「えっと……」
旭は返答に詰まった。
「……もういい」
その子は冷ややかに旭の横を通り過ぎる。
「どこ行くの?」
旭が尋ねた。
「頭、冷やしてくる」
その子は短くそう告げた。
「でも、もう暗いし……」
旭は引き止めようとしたが、その足取りは止まらなかった。
バタン。
重い音を立ててドアが閉まった。
夕飯の準備も残っている。
けれど、あの子の様子も放っておけなかった。
旭は後を追うように、外へと飛び出した。
街灯の少ない暗い一本道を、その子はゆっくりと歩いていた。
「……なんで来たの?」
旭の気配に気づき、その子が呟いた。
「……」
旭は何も答えられず、ただ静かに隣を歩いた。
しばらく歩いたあと、その子がぽつりと口を開いた。
「ごめん。思うように動けなくて、知らない場所で一人でいることが多いから、不安になってたのかも」
「……そっか」
旭は、その言葉をそのまま受け止めた。
その日の夕飯は、近くの店で済ませることにした。
二人で向かい合って食べ、二人で並んで家へと帰った。
布団に入る頃には、いつもの空気に戻っていた。
そうしてまた、淡々と日々が過ぎ去っていく―――。




