三十節 遭遇
その子と顔を合わせたのは、それが二度目のことだった。
待ち合わせたのは、劇団の最寄り駅近くにある不動産屋。
彼女の両親は教師をしているらしく、
社会的な信用も厚いため、部屋探しは容易に進むかに思えた。
だが、その日のうちに契約まで漕ぎ着けなければならず、難航した。
駅の周辺物件は全滅。バスで二十分ほど離れた場所に、
ようやく一軒のアパートを見つけ出した。
間取りは3DK。
ただ、そこはいわく付きの物件だった。
後から知ることになるのだが、その部屋を借りた者は例外なく事故に遭い、
退去を余儀なくされていたという。
旭に霊的な感性はなかったが、その空間に入った瞬間、
どことなく落ち着かない感覚を覚えた。
とある部屋の押し入れを開けると、
小学生が使うような黄色い安全旗がポツンと残されていた。
その子が静かに呟いた。
「まだ、残ってる」
その子は霊感が強く、目に見えないものが視えるらしかった。
別の部屋には黒い影も潜んでいるのだという。
けれど、生活を始めるためには住居が必要であり、残された時間もわずかだった。
広さの割に家賃が安かったこともあり、旭たちはその部屋に決めることにした。
そして、引っ越しの日が訪れる。
旭の荷物は、パソコンとベッド、自転車くらいのものだった。
ひとまずは試しでの同居という立ち位置だったため、
実家からすべての荷物を運び出す必要がなかったのだ。
対して、その子は違った。
趣味の球体関節人形や好きなアーティストのCDなど、
これまでの生活の延長にある品々をしっかりと持ち込んでいた。
旭はアルバイト先も、新居の近くにあるファストフード店へと移籍させた。
これから明るい未来が待っているのだと、胸のワクワクが収まらなかった。
そんな新しい生活が始まろうとしていた、ある日のこと。
住民票を移動させるため、
その子を自転車に乗せて市役所へと向かっている途中だった。
青信号が点灯する交差点を渡っていた旭とその子は、
進入してきた車にはねられた―――




