二十九節 共鳴
その頃から、旭にはとあるSNSで知り合った人物がいた。
その子は、自分と同じ症状を抱えていると話していた。
他愛のない雑談、互いの相談事、記憶が欠落する時間の苦悩など、
旭にとってその存在は日増しに大きなものとなっていった。
その子と向き合っている時、旭はごく自然体でいられた。
時には、相手の内部にいる存在たちと会話を交わすこともあった。
そうした経験を、旭は自分の中に少しずつ蓄積させていった。
様々な意見に耳を傾け、解決の糸口を探る。
自己分析を静かに重ねていくうちに、
ある程度は自身の内部とも向き合えるようになっていった。
そして、自分の中にいる同居人たちが決して敵ではないのだと、理解するようになる。
旭にとって「一人ではない」という感覚は、
いつしか当たり前のものとなり、確かな心強さへと変わっていた。
専門学校を卒業し、養成所と劇団を行き来する多忙な日々の中でも、
その子とのやり取りは絶え間なく続いていった。
旭の生活において、その存在はなくてはならないものになっていた。
住んでいる地域が離れていたため、
やり取りはずっとネット上のメッセージや電話だけに限られていた。
二十歳を過ぎた頃だったろうか。
ごく自然な調子で、相手から切り出された言葉があった。
「ねぇ、一緒に暮らさない? 家が嫌なら、出ちゃえばいいのよ」
旭の胸に、強い衝撃が走った。
家を出るという選択肢など、それまで考えたこともなかったのだ。
結果として、旭は経験の一環という名目で母から生活を許可され、
所属する劇団の最寄り駅の近くで、二人で暮らすための家を探し始めた――。




