三節 芝居
ある日、幼稚園のお遊戯会で「鳥の役」をやることになった。
旭の胸は、久しぶりにワクワクとした高鳴りを見せた。
自分じゃない「何か」になる。
それは、旭にとって何よりも魅力的なことだった。
あれこれと頭の中で想像を膨らませる時間が、大好きだったから。
セリフの書かれた紙をもらった。
鳥さんは、今どんなことを考えているんだろう。
羽を広げる時は、どんな気持ちなんだろう。
旭は毎日のように、一生懸命練習を重ねた。
発表会当日。
舞台に立った旭は、少しの物怖じもせず、堂々と鳥の役を演じきった。
純粋に、心の底から楽しかった。
でも、それだけでは終わらなかった。
出番が終わったあと、先生も、他のお友達のお母さんたちも、みんなが旭のもとへ駆け寄ってくれたのだ。
「旭ちゃん、すっごく上手だったわね!」
褒められた。それが、堪らなく嬉しかった。
「旭」のままでいる時は誰も分かってくれなかったのに、自分じゃない何かを演じた瞬間、世界が自分を認めて、褒めてくれた。
鳥の気持ちを、一生懸命に考えた。
たくさん、たくさん練習した。
それが、全部報われた気がした。
俯いてばかりいた旭のなかに、ひとつの強い光が灯る。
(私、お芝居が大好き!)
――それからの変化は、早かった。
小学生になった旭は、長く伸ばしていた髪をバッサリと切り落とした。
大好きだったはずのピンク色は色褪せ、選ぶものはすべて青色に変わった。
そしてそれ以降、彼女がスカートを履くことは、二度となかった。




