二十五節 観察
そんな生活を送るうちに、あっという間に三年生になっていた。
旭は夏休みになると、必ず専門学校の体験授業へ通っていた。
一年生の時から続けていた習慣だった。
そのため、学校の先生とも顔なじみになっていた。
進学するつもりで通っていただけだったが、
それでも新しい場所が増えていくことは楽しみだった。
養成スクールでは、アフレコの経験も積んでいた。
自信を持って演じる時間が、旭には楽しかった。
だが、楽しさはそれだけではなかった。
人数が多い分、待ち時間も長い。
その間に他の参加者の芝居を観察し、講師が送るフィードバックに耳を傾けた。
この人は、ここがずれている。
この人は、呼吸が浅い。
この人は、声だけで演じている。
体験に来た人たちの芝居を聞きながら、旭は心の中で分析を重ねていた。
やがて講師が自分と同じ指摘を口にすると、
「やっぱりそうか」
と胸の中で頷く。
そうした観察と答え合わせを、愚直に積み重ねていった。
あっという間に願書提出の時期が訪れ、旭はすぐに動いた。
「ここに行くから、学費を出してほしい」
旭は母に向かって、はっきりとそう告げた。
スクールへ通うのも自力で払い、高校の通学費も削り続けてきた。
すべては、この瞬間のために。
バイトをいくらこなしたところで、高校生の身で稼げる額などたかが知れている。
働き始める前から、それは分かっていたことだった。
だからこそ、このタイミングで行動に移した。
母は珍しく反対の言葉を口にせず、あっさりと了承してくれた。
「旭、頑張ってるからね」
それだけだった。
こうして難なく合格を果たした旭は、
さらに部活やバイト、スクールでの時間へと深く没頭していった――。




