二十一節 指揮
二年生になり、大会に出す劇の配役に旭は落ちた。
役者でなければいけないと思い込んでいた旭にとって、それは大きなショックだった。
裏方で一体何をすればいいのかも分からない。
見かねた顧問の先生が声をかけてきた。
「作品を裏から支えることも、大事な仕事だよ」
頭では分かっていても、心が追いつかなかった。
「舞台監督なんてどうかな?」
先生は言葉を継いだ。
「舞台監督は全体を見なきゃいけないから、芝居に詳しくないとできないよ」
そう言われて、旭はゆっくり顔を上げた。
「芝居に、詳しくないと……?」
舞台監督が何を意味するのか、正直なところよく分かっていなかった。
けれど旭は、その言葉に強く惹かれた。
実際にやってみると、想像以上に過酷だった。
舞台セットの調整、音響の選定、演者への指導。
本当に舞台のすべてを担う立場だった。
部員数が少なかったため、旭は音響係も兼任した。
このタイミングで、この音を流す。 照明はここで、こう落とす。
細かい指示を、台本の余白へ書き込んでいった。
その頃からだった。
旭の感覚に、妙な違和感が混ざり始めたのは。
なぜ自分がここに存在しているのかが、不思議でならない。
自分の目で見ているはずの視界に、どこか歪んだような感覚がまとわりつく。
旭はただ、コンタクトレンズの度数が合わないせいだろうと思っていた――。
季節は過ぎ、大会が刻一刻と近づいてきた。
旭も、演者たちも、何度も練習を重ねた。
旭たちの通う高校は、毎年地区大会で敗退してしまうような学校だった。
それでも、全員で精一杯つくりあげた舞台を届ける。
ここで照明。
ここで、この音。
練習通りに舞台が進んでいく。
それと同時に、観客が反応している空気が音響室まで届いてきた。
嬉しかった。そして、心から楽しかった。
そして、結果発表の瞬間。
旭が舞台監督を務めたこの年、
学校にとって二十一年ぶりとなる県大会出場が決まった――。
自分が指揮した舞台が、はっきりと認められた瞬間だった。
さらに、審査員からの講評が読み上げられる。
「音のタイミングなどが実に素晴らしかった」
旭が
「ここだ」
とこだわり抜いた部分が、正当に評価されていた。
ただそれだけで、旭の胸は満たされていた――。




