十七節 評価
旭には、大好きな先生がいた。
音楽の担当教諭だった。
その先生はアニメの話にも優しく耳を傾けてくれたし、
何より旭の好きな音楽を理解してくれた。
特に旭が愛してやまないアニメのサウンドトラックは和楽器で構成されており、
和楽器好きの先生の心にも深く刺さったようだった。
旭は、お小遣いをコツコツ貯めて買った宝物のCDを先生に貸した。
「ここの尺八の音がすごく好きなんです」
「ここの和太鼓の響きがたまらないよね」
好きなものを共有し、熱く語り合うその時間は、旭にとって救いだった。
クラスメイトよりもずっと心が通い合っている気がしていた。
だが、その親密さが、またしても周囲の嫉妬を買い、悪意を生んでいく。
「あいつ、また先生に媚び売ってる」
音楽が好きだった旭は、音楽史や理論の勉強も苦にならなかった。
テストの成績も常に良く、通知表の評価も「4」。
このままいけば、高校受験も有利に進むはずだった。
――けれどある日、旭は先生に何気ない一言をかけてしまう。
あまりに他愛もない言葉だったため、旭自身は何を言ったのかすら覚えていない。
だが、その瞬間、先生の表情が引きつるように固まった。
旭を見る先生の瞳からぬくもりが消え、同級生たちと同じ冷ややかな光が宿った。
その日から、先生はあからさまに旭を避けるようになった。
そんなある日、卒業式で歌う学年合唱の指揮者オーディションが開催された。
旭は迷わず立候補した。
先生との間に漂う不穏な空気を吹き飛ばしたかったし、
何より、大好きな楽曲を一つにまとめ上げる役割を担いたかったのだ。
オーディションの結果、旭は見事に指揮者の座を手に入れた。
胸がワクワクと躍った。
指揮者はただ手を振るだけではない。
誰よりも深く楽曲の背景を読み解き、
強弱や感情の指示を解釈しなければならない。
自分に託されたその重責が、旭には心から嬉しかった。
自分の腕ひと振りで、静寂の中に音楽が流れ出す。
テンポをコントロールし、ピアノの奏者と息を合わせ、瞳で合図を送る。
まさに旭がずっと求めていた「最高の作品作り」が、そこにあった。
――そして、三年生の中頃。
教室で通知表が手渡された。
期待と緊張に胸を膨らませながらページを開いた旭は、自分の目を疑った。
「……え?」
音楽の評価欄に刻まれていたのは、「2」の数字だった。
テストの点数も、授業態度も、これまでと何も変わっていないはずなのに。
思考が真っ白になり、やがて冷や汗が吹き出した。
その時、旭の頭の中に一つの恐ろしい確信が浮かび上がった。
(あの先生は……私の『声優になりたい』っていう夢を知っていた。だからだ。私が夢を叶えられないように、私の未来を奪ったんだ――)




