↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちの物語  作者: 鎧
旭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/43

十四節 調和

季節は秋へと移り変わっていた。

春からずっとクラスで孤立していた旭にとって、合唱コンクールの本番が刻一刻と迫っていた。

旭は練習の手を一切抜かなかった。

声を出すこと、感情を乗せて表現することが何より楽しかったのだ。

ここは小さくささやき、ここは強く訴えかける。

歌であるはずなのに、そこにはまるで演劇のような台本があった。


何より旭は、合唱というものが好きだった。

指示通りに表現できた時の全能感。

別パートの声と自分の声が重なり、

綺麗にハモった瞬間のゾクゾクするような気持ちよさ。

空気を読み、周囲の声に耳を澄ませ、クラス全員で一つの曲を完成させていく――


なんて素敵で、美しい営みなのだろうと思った。


普段の教室では孤独だった旭も、音楽の時間だけはみんなと同じ時間を共有できた。


(……直接向き合えなくても、作品を通してなら、私はみんなと仲間になれるのかもしれない)


本気でそう思っていた。

――そして、迎えた本番。

胸は高鳴っていたが、同時に不思議なワクワク感に包まれていた。


「あんなに練習したんだから、絶対に大丈夫」


心のどこかに、確かな自信があった。

指揮者が静かに腕を掲げ、ピアノのイントロが会場に響き渡る。

旭は客席に向かい、全身全霊で歌を、物語を表現した。

聴いてくれる人を感動させたい、楽しませたい――その一心だった。


「――それでは、結果を発表します! まず、優秀賞は◯組!」


大きな拍手と歓声がホールに響く。

旭の胸はドクドクと激しく打っていた。

もし、自分たちのクラスが一番じゃなかったら……?

想像するだけで、漠然とした恐怖が背筋を駆け抜ける。


「そして、最優秀賞は――――!!」


自分たちのクラス名が呼ばれたその瞬間、旭の周りからすっと音が消え去った。

歓喜に湧くクラスメイトたちの姿を余所に、

旭の胸の奥底から何かが静かに湧き上がってきた。

それは勝利の喜びというよりも、深い「安堵感」だった。


「成功した」という誇らしさよりも先に、

「失敗しなくてよかった」という安堵が胸を満たす。

自分たちの表現がお客さんに届き、正当に評価されたのだ。

溢れ出る安堵感の中で、旭は胸の中でそっと呟いた。


(……良かった。表現の世界の中なら、私は息ができる。生きていける)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。