十二節 嫉み
旭は、先輩や先生たちからは好かれていた。
言われたことをまっすぐにこなし、人に親切で、
いつも周囲の空気を読んで動いていたからだ。
だが、大人や先輩に認められれば認められるほど、同級生たちの間での孤立は深まっていった。
「なんなの、あいつ」
「先輩に可愛がられちゃってさ」
「先生に媚び売って、良い子ぶってるだけでしょ」
ざわざわと騒がしい教室の片隅で、
部活の同級生たちが自分を愚痴のネタにしているのを、旭は黙って耳にしていた。
その中のひとりが、イライラした様子で声を荒らげる。
「うち、家で弟たちの世話ばっかりさせられてるんだよね! もうストレス溜まってしょうがないんだけど!」
その言葉を聞いた瞬間、旭の胸の中にすっと腑に落ちるものがあった。
(……あぁ、だから私で発散してるんだ。あの子にも、そうする理由があったんだ)
意地悪をされる理由を知り、怒りは湧いてこなかった。
私に当たって彼女の気が晴れるのなら、まぁ、いいか――
そう思えてしまったのだ。
怒るどころか、どこかで彼女を可哀想だとさえ感じていた。
そうやって誰かを攻撃しなければやっていけない彼女が、不憫に思えたのだ。
(家でそんなに大変なら、少しぐらい当たられてもしょうがないか)
旭が思ったのは、ただそれだけだった。
(私にはシノがいるけれど、きっとあの子には、自分の気持ちを吐き出せる場所がないんだ……)
旭はそう自分に言い聞かせ、また静かに怒りを押し殺した。




