十一節 孤立
旭はその日、ドキドキしていた。
合唱コンクールの課題曲を練習するからだった。
でも新しい環境というものは残酷だった。
違う小学校からの人たちと過ごさなければならなかった。
つまり、旭を理解していない人たちが大勢いたのである。
「〜〜〜♪」
歌を歌った。声が大きく響いた。
「旭、声デカくね?」
誰かが言った。
「あ、、あのね腹式呼吸ていうのがあってね」
旭は説明した。
喉からじゃなくてお腹から声を出すんだと。
歌う時と地声が変化するという事を。
でも、逆効果だった。
「それなのに声変わってないじゃんか!」
そう言われた途端クラス中がどっと笑いで湧いた。
「なんだ!ただの声でか自慢かよ!」
そのあとも何か言われたけれど思い出せない。
悲しくなって、旭は泣き出した。
音楽室の空気が、変わった。
「なんで泣いてんだよこいつ」という空気だった。
旭にとって「声が変わらない」と言うことが声優になるために越えなければならないものだった。
それを「変わってない」と確信をつかれてしまった。
旭は「自分が上手くないからだ」と自分を責めた。
恥ずかしいより先に悲しかった。
そこから学校生活が一変する。
小学生の頃のような主人公の明るさは消え、
静かに過ごすようになった。
そして教室の声に耳を傾けた。
そうするしかなかった。
あの一件から、旭はみんなから無視され始めたのだ。
それでも旭は「自分が悪かったから」と思っていた。
そして始めた部活動。
すごく軽いノリで入った。
部活が何をするところかわからずに。
テニス初心者だった旭は上手い先輩に憧れた。
でもテニスは本気ではなかった。
教えてもらう基礎はやったけど、土日の練習や大会などは望んでいなかった。
「ねぇ、シノ。私こんなのだって知らなかったよ。土曜の練習に行かないって言ったら、部活の友達もお母さんもすごくびっくりしたあとで怒ってきたんだ。『旭が決めたことでしょう!』って」
旭は純粋にわかっていなかった。
「ひっこし」の時のようにただわからなかった。
「私の夢は声優なのに、なんでこんなので時間持ってかれなきゃいけないの?」
旭はため息を吐きながらシノに寄りかかった。
「じゃあ辞めたいって言ったら『そんな簡単なものじゃないのよ!』て酷く怒られちゃった。簡単に辞められないんだって。辞めたら成績に響くんだって...」
旭はグッと拳を握りながら言った。
「私は高校に行かなきゃいけないの。...だから、辞められない...」
それから気持ちを切り替えた旭は一生懸命に練習に励んだ。
先輩の言うことを聞いた率先して動いた。
チームを組む時にレギュラーになった。
旭には達成感があった。
「なんでもできると気持ちいい!!」旭は嬉しかった。
でも、そんな彼女に現実は突き刺さった。
ある日先輩たちの打ったボールをネット際で拾っていた時、
別の方からボールが飛んできて旭に直撃した。
初めは気のせいかと思い過ごそうとしたがボールの数が増えてきた。
おかしいと思って顔を上げると、同級生たちが旭を的にしていた。
「今足に当たった!次は顔!」
くすくすと楽しそうに練習せずに的当てゲームをしていた。
「どうしてこんなことするんだろう」
旭は思ったが、ボールを先輩に渡さねばとボールを回収していった。
ヒュンッーーーーー
空を切る音と共に一球のボールが旭ラケットの上に集めたボールに直撃した。
バラバラと、落ちていくボールたち。
その時先輩が言った
「一年生!ボール!!」
「はい!」
そう言って動き出す同級生たち。
すでに顔には意地悪な笑顔が張り付いていた。
「旭、モタモタしてんじゃないよ!!」
ドン、と体にぶつかられた。
屈んでいた体が微かに揺らぐ。
そして悟った。
「ここも、私の居場所じゃない」




