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第8話|ブラックな環境は、人を変えてしまう――だから私は、居場所を選ぶ

彼女とは、昔、同じ教室に立っていた。


学習塾の講師として、

同じ時間を過ごしていた仲間だった。


若かった私たちは、よく語り合った。


どうすれば、子どもたちに伝わるのか。


夜遅くまで、答えのない話を続けていた。



くだらないことで笑いながら、

それでも本気で、未来を考えていた。


あの頃の彼女の目は、

確かに輝いていた。



それから、二十年。


それぞれの道を歩むようになり、

連絡は、年に一度あるかないかになった。


そんな彼女から、突然メールが届いた。


「会いたい」


懐かしさに、胸が少し弾む。


けれど――


画面を開いた瞬間、

ほんのわずかな違和感が残った。


「先週、オーナーと一戦交えました」


その言葉に、少しだけ引っかかる。


驚きながらも、私は返した。


「体を一番に考えてね」


返信は、すぐに届いた。


そこには、

見慣れない言葉が並んでいた。


「腐ったみかんの方程式ってありましたよね」

「腐った人間と仕事をしていると、こちらまで嫌な人間になる」


スマートフォンを持つ手が、少し止まる。


その言葉だけが、

なぜか胸に引っかかった。


かつて、私たちは話していた。


どれだけ勉強ができても、

人を見下す人にはなってほしくない、と。


彼女は、そのとき、確かにうなずいていた。


……じゃあ、今のこの言葉は、何だろう。



私は、ふと考えた。


もし――

私があのまま同じ場所に居続けていたら。


私も同じように、

誰かをそう呼ぶようになっていたのだろうか。


そう思ったとき、

胸の奥が、すっと冷えた。


十年という時間。


その場所で過ごした日々。


それが少しずつ、

彼女の言葉を変えていったのかもしれない。



気づいたときには、

言葉が変わっている。


考え方が変わっている。


そして――

人は、

毎日いる場所の言葉に染まっていく。


だから私は、

“どこで働くか”を、

以前よりずっと慎重に考えるようになった。

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