第6話|「嫌なら辞めればいい」と言う友達に、私はなれなかった
私と同じ年齢の友人がいる。
彼女は、私とは真逆の生き方をしている。
半年も経てば、こう連絡が来る。
「また新しいところに行くの」
まるで季節が変わるみたいに、
軽やかに職場を変えていく人だった。
ある日、私は聞いてみた。
「そんなにすぐ辞めて、大丈夫なの?」
彼女は、少しも迷わず笑った。
「りゃ~辞めるのはたいへんだよ、でも嫌なところにいる時間がもったいないから」
彼女は、
迷うことなくそう告げる。
あまりにもあっけなくて、
私は一瞬、言葉を失った。
……正直に言えば、羨ましかった。
その軽さ。
その切り替えの速さ。
引きずらない。
悩みすぎない。
次へ行く。
それはきっと、ひとつの強さだ。
けれど――
私は、どうしても同じことはできない。
仕事を辞めるというのは、
そんなに軽い行為ではない。
辞めると決めるまでの葛藤。
伝える瞬間の重さ。
引き止める声への対応。
辞めると決めた夜、
眠れなくなることもある。
伝える日が近づくだけで、
胃が痛くなることもある。
そして何より、
また一から自分を説明し直す、あの消耗。
……あの感覚を、私は知っている。
だからこそ思う。
その力を使うなら、
「辞めるため」ではなく――
「見極めるため」に使いたい。
第3話で、私はおできを撫でながら歩いた。
第4話では、心の中で叫んだ。
「事務って書くな」と。
あの一つひとつの違和感は、
全部、無駄ではなかった。
私はあのとき、
自分がどこなら健やかでいられるのかを、
確かめていたのだと思う。
入ってから傷つくよりも、
入る前に見極める。
一見、遠回りに見えるかもしれない。
けれど――
62歳の今、
残りの時間は、
「お試し」に使うには惜しい。
だから私は、
“ここだ”と思えない場所に、
もう自分を置かない。




