第2話|優しい場所だと思ったのに、“答え”は返ってこなかった
“年齢不問”という言葉を、信じてしまった。
ハローワークで見つけたのは、
「保育園の事務兼保育補助」の仕事だった。
子育て経験はある。
子どもも好きだ。
それに、職業訓練校で学んだパソコンも、
少しは活かせるかもしれない。
ただ、ひとつだけ気がかりがあった。
「62歳ですが、大丈夫でしょうか」
恐る恐る確認した私に、返ってきた言葉は――
「年齢は不問です」
その一言に背中を押され、
私は新しい扉を叩くことにした。
【面接:歯の痛みと園長】
面接当日。
なぜか奥歯が、じんわりと痛んでいた。
体が先に、
「何か違う」と感じていたのかもしれない。
「よりによって、こんな日に……」
そう思いながらも、ふと考える。
――この痛みがある分、冷静でいられるかもしれない。
現れた園長は、40代くらいの男性だった。
背が高く、穏やかで、品のある印象。
非の打ちどころがない。
……けれど。
その“整いすぎた感じ”に、
どこか引っかかるものがあった。
園の雰囲気も落ち着いていて、悪くない。
それなのに、話が進むにつれて、
私の中に小さな違和感が芽を出し始めた。
【説明の中のズレ】
「スマートフォンで写真を管理します」
「園の資料も作成していただきます」
――できるだろうか。
教えてもらえれば、できるかもしれない。
でも、その“かもしれない”が、不安だった。
園長は続ける。
「体力には自信がありますか?」
「ストレスはどう発散していますか?」
その瞬間、胸の奥に何かが引っかかった。
さらに、こう続けた。
「事務をやりたかったのに補助ばかりで辞める人や、
補助をやりたかったのに事務ばかりで辞める人もいるので、
そこは確認しています」
――あれ?
その言葉が、妙に残った。
【止まった“答え”】
私は、ひとつだけ確認した。
「事務と補助の割合は、どれくらいですか?」
その瞬間だった。
空気が、わずかに止まった気がした。
……いや。
止まったのは空気じゃない。
“答え”の方だった。
そして、少し間を置いて返ってきた言葉。
「……それは、何とも言えません」
――何とも言えません?
その一言で、私の中の何かが静かに決まった。
【結:不採用という結末】
面接のあと、園内を案内してもらった。
スタッフの方々は感じがよく、
年配の人も多くて、安心感もある。
それでも――
帰り道、胸に残ったのは、
はっきりしない違和感だった。
――いいような、悪いような。
でも、ひとつだけ確かなことがあった。
ここは、違う。
採用されても、断ろう。
そう思っていた。
10日後。
届いたのは、「不採用」の連絡だった。
断るつもりだったのに、
ほんの少しだけ、胸が痛んだ。
けれど、その痛みは――
間違っていなかった、という証のようにも感じられた。
そして私は、少しずつ、
“見抜けるようになっていく”。
優しい場所ほど、
条件を曖昧にすることがあるのだと。
そのことを、
私は少しずつ学び始めていた。




