第99話 巻物探妖其の拾弍
「雷に氷で対抗する方法?」
その問いに、風見宙飛が首を傾げる。
「ああ。強化合宿の個人戦で、おれだけ相手の真神と引き分け。つまり醜態を晒しただろ?」
強化合宿を終えた後のある日の放課後。戌亥訓練場で、おれ、折霜涼は宙飛にそう尋ねた。
「醜態を晒したのは僕もだけどね。まあ、代表選手の中では涼だけが引き分けだったもんな」
「だからさ。今後また同じような状況になった時、ちゃんと立ち回れるようにしておきたいんだよ」
「そうだね……氷に電気を通しにくくする方法なら、二つ考えられるかな」
宙飛は少し考えて、そう告げる。
「おお、二つもあるのか。さすが宙飛!」
「一つ目は、氷の純度を上げること。純水が電気をほとんど通さないのは知ってるよね?」
「ああ」
「水が電気を通しやすいのは、溶け込んでいる不純物の影響が大きい。これは氷でも同じだよ」
「なるほど。で、二つ目は?」
「氷の温度を下げる」
宙飛は人差し指を立てる。
「真神との戦いでも、電撃の大部分は氷そのものというより、表面にできた水を伝って広がったんだと思う。だから、もっと温度を下げて溶けにくくすればいい」
「ふむふむ」
「それに、氷自体も温度が上がるほど電気を通しやすくなるはずだよ」
「つまり、氷の純度を上げて、温度を下げればいいのか」
「そういうこと」
「で、そのためにはどうすればいいんだ?」
「……それくらい自分で考えなよ」
宙飛は呆れたように嘆息した。
おれは、そんな宙飛との会話を思い出しながら伊鳴篠を見据える。
(狐雹の力によって、おれの氷は肥大している。でも、ただ大きいだけじゃ駄目だ)
手裏剣を覆っていた氷を、一度水へと戻す。
「なんや、もう降参かいな?」
伊鳴の言葉には取り合わない。
おれは意識を集中させ、再び氷を生成する。
(纏わせる氷は最低限。その代わり――より冷たく、より清く)
右手の棒手裏剣を核として、細長い氷が伸びていく。
出来上がったのは、脇差のような形をした一振りの氷刀だった。
「行くぞ!」
おれは地面を蹴り、伊鳴へ斬り掛かる。
「っ!」
伊鳴が手にした鍵で氷刀を受け止めた。
金属と氷がぶつかり、雷光が弾ける。
だが、先ほどまでのような痺れは来ない。
僅かな刺激が指先へ伝わるだけだ。
(いける!)
そのまま二撃、三撃と斬撃を重ねる。
「なっ……あたきの電撃が効いてへんのか?」
「効かないねぇ、そんなもの!」
もちろん、まったく感じないわけじゃないけれど、この程度なら動ける。
動揺した伊鳴の隙を見逃さず、氷を纏わせた左拳をその腹へ叩き込んだ。
「がっ!」
伊鳴が体勢を崩す。
「鬼霜柱!」
続けて地面へ力を流し込む。
伊鳴の足元から巨大な霜柱が一斉に隆起し、その身体を取り囲んだ。
『なっ⁉ まさか篠がやられるとは……』
閃狐の驚愕した声が響く。
『どうじゃ、閃狐』
対する狐雹の声は、これ以上ないほど愉快そうだった。
『妾の涼は強いじゃろう?』




