第98話 巻物探妖其の拾壱
わたし、笹舟喩能は、移動しながら演習林内の状況を探っていた。
探るといっても、視覚や聴覚を使っているわけではない。
人間の神経系から漏れる、微弱な電磁波を感知している。
(戦いも佳境だね。そんな中で、まだ誰とも接触していない人物が一人)
赤撞木鮫の式神によって知覚範囲を大幅に増幅し、わたしは演習林全体にいる人間の位置を捉えていた。
(この混戦で誰とも出会っていないなんて、偶然とは思えない。わたしと同じように、何らかの索敵手段を持っている可能性が高い)
わたしは、その人物のいる方向へ駆ける。
ただし、真っ直ぐには向かわない。
敵味方の位置を壁として利用し、相手がわたしを避けようとしても、逃げ道が次第に狭まるように迂回する。
「なぜ追いつける? まさか、某が誘導されていたとでもいうのか⁉」
やがて追い詰めたのは、藍炭茶色の前髪で目元を覆った、小柄な少年だった。
「百地朔逆。音使いなんだね」
百地の思考を拾いながら、わたしは続ける。
「反響音で周囲の人間を感知して、避け続けていたわけか」
「なっ、なぜそれを⁉」
百地が仰天する。前髪で隠れていなければ、きっと刮目した様が見えたことだろう。
「巻物を一つ持っているよね。渡してくれない?」
「舐めるな。逃げられないのなら、貴様を倒すだけだ!」
百地は手にした音叉のような忍具を掲げる。
「波導恵宝!」
百地が忍具を振るわせる。
けれど、術が発動するより先に、わたしは首へ掛けていた遮音用ヘッドホンを耳へ装着していた。
百地の思考から、この術が聴覚を通じて平衡感覚を乱すものだと分かっていたからだ。
(心の声と同じくらい煩わしい外の雑音を防ぐために、普段から身に着けている物なんだけど)
歪んだ音が、ヘッドホンの外側でくぐもる。
(彼に対しては、これ以上ない防具だね)
攻撃が通じなかったことに、百地の動揺が走る。
その隙に距離を詰め、十手を胴へ打ち込んだ。
「がはっ!」
十手に纏わせていた電撃が、百地の身体を駆け巡る。
百地は全身を痺れさせ、その場へ倒れた。
「こちら笹舟。相手チームの一人を撃破して、巻物を手に入れたよ」
百地の懐から巻物を取り出し、無線で仲間へ報告する。
それから、わたしはその場へ座り込んだ。
(これで、役目は果たせたかな)
けれど、戦闘中に拾った百地の思考を整理するうちに、あることへ気づく。
(……いや、違う。このままじゃまずい)
わたしは小さく息を吐く。
「わたしがやるしかないか。はぁ、疲れる……」




