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第96話 巻物探妖其の玖

(この糸……そうか。この辺り一帯に罠を仕掛けたのは、狭山だったんだね)

 オイラ、漣蒼茉も、先ほどまでの笹舟と同じように蜘蛛糸へ引っ掛かった。


 だが、鎌鼬のような刃風を起こせるオイラにとって、この程度の拘束は意味をなさない。

 身体の周囲へ風を走らせ、絡み付いた糸を切断する。


(まあ、そこまで繊細に風を操れるわけじゃないから、自分の肌も少し傷つけちったけど……)

 自由になった腕を動かしながら、オイラは周囲に張り巡らされた蜘蛛糸を眺める。


「漣くん。わたしは手伝わなくても大丈夫だよね」

 笹舟喩能がそう尋ねてくる。


 思考を読める彼女のことだ。確認以上の意味はないのだろう。


(そんな気遣いをされるくらいには、打ち解けたと考えていいのかな?)


「ああ。笹舟さんは、残りの巻物を探すことに集中してくれ」


「うん。任せたよ」

 そう言い残し、笹舟はその場から立ち去った。


「随分、うちば舐めとうね。その余裕、後悔させちゃるばい」

 その様子を見ていた狭山が、苛立ちを隠そうともせずに告げる。


「後悔……ね」

 その言葉だけは、聞き流せなかった。


「気が変わった」

 オイラは彼女を睨み、静かに呟く。


(後悔なら、ずっとしている。あの日から、ずっと)


「な、何ね……」

 オイラの視線に、狭山が僅かにたじろぐ。


 それに構わず、懐から取り出した翡翠の欠片を口に咥えた。

 青緑色に輝く石へ験力を込めると、その光が燕の姿をした式神を形作る。


「女の子を痛めつけるのは趣味じゃねぇから、適当にやり過ごすつもりだったんだけどさ」

 左右の手に、二つずつ飛去来器ブーメランを構える。


「本気で相手をしてやるよ」


「何を言っとう?」

 狭山の問いを無視し、オイラは四つの飛去来器を同時に投げ放った。


「やるとね? かかってこ――」

 狭山が言い終えるより早く、四つの飛去来器が異なる軌道を描いて襲い掛かる。


屍仄燕慚しそくえんざん

 右から一つ。左から二つ。


 最後の一つは頭上を越え、背後へ回り込む。

 狭山が飛去来器へ意識を向けた瞬間、オイラは彼女の正面へ踏み込んでいた。


 飛去来器で四方の逃げ道を塞ぎ、その中央へオイラ自身が飛び込む。


「いつの間に――」

 狭山が気づいた時には、もう遅い。


 身体を捻り、その脇腹へ回し蹴りを叩き込んだ。


「がはっ!」

 狭山の身体が地面へ倒れる。


 その直後、四方を飛んでいた飛去来器が一斉に戻ってきた。

 四つの刃は狭山の身体を避け、制服の両袖と両裾を地面へ縫い留めるように突き立つ。


「自分が拘束される気分はどうだい?」


「がっ、ぐぅ……」

 オイラの問いに答える余裕は、狭山には残っていないようだった。

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