第95話 巻物探妖其の捌
(くそ……全身が熱い。力も入りにくくなってきた)
時間が経てば経つほど、不利になる。
そんな俺、穂月錬次との間合いを、村上吉凶が一気に詰めた。
重い鉾の突きが迫る。
「くっ!」
日本刀で受け止めるが、衝撃が肩まで響き、膝が揺らいだ。
「おらあっ!」
その隙を見逃さず、村上は鉾を引き、石突で俺の顔を狙う。
咄嗟に頭を逸らしたものの、頬を掠めた一撃に視界が揺れた。
「ほらほら、もう一発じゃ!」
村上の猛攻は止まらない。
毒を纏った鉾の穂先が縦横に閃き、俺の防御を崩しにかかる。
俺もどうにか食い下がり、刀へ炎を纏わせた。
「鬼灯火斬!」
炎を纏った刃が、村上の肩口を掠める。
「ええ意地じゃのう。じゃが……そろそろ限界じゃろ?」
「……まだ、だ」
強がってはみたものの、呼吸は荒い。
毒の回った脚から、とうとう力が抜けかける。
同時に薄羽蜉蝣の式神を解除する。深紅の身体が、淡い光となって解けていった。
「もろうた!」
勝利を確信した村上が、鉾を大きく振り被る。
俺はその瞬間を待っていた。
「鬼灯噴炎!」
地面を蹴り、全身をばねにして、炎を纏った刀を振り上げる。
「がはっ!」
完全に油断していた村上は反応できず、炎の斬撃を受けて後方へ吹き飛んだ。
(こういう騙し討ちは、宙飛のやり方なんだけどな……)
あいつなら、もっと自然にやるのだろう。
「俺の勝ちだ。巻物を渡してもらおう」
「くそ……まだ、やれるぞ……」
村上は気丈に言い返すが、立ち上がるのも難しいようだった。
「倒したのか?」
背後から声を掛けられ、俺は振り返る。
そこにいたのは、土色の髪と厭世的な表情を持つ少年、槌屋堆志だった。
片手には、土で形作られた槍を携えている。
「ああ。悪いが、お前の出番は――ぐっ!」
突然、槍の石突が俺の鳩尾へ突き込まれた。
「な……何を……」
息が詰まり、身体が折れる。
「悪いけど、吉凶の巻物は渡せんけんね」
声は槌屋のものだった。
だが、その言葉遣いは槌屋のものではない。
「……お前、槌屋じゃないな。誰だ?」
「へえ、気づくんが早いねえ」
槌屋の顔をした何者かが、左手で自らの顔を覆う。
その手が離れると、顔立ちはまるで別人へ変わっていた。
漆黒の髪。陶磁器のように白い肌。
そして、深い隈の刻まれた垂れ目。
先ほどまでの槌屋とは、似ても似つかない少年が立っていた。




