第94話 巻物探妖其の漆
「鬼氷壁!」
おれ、折霜涼は目前に氷の盾を出現させる。
「そんなん、無駄やで」
それを見た伊鳴篠は、突進の軌道を変えた。
氷壁を回り込むように移動し、稲荷狐が咥えているような巨大な鍵を振り下ろしてくる。
(速い。いや、素早い!)
おれは咄嗟に、氷を纏わせた手裏剣でその一撃を防いだ。
「『神成』状態のあたきの攻撃を見切るやなんて、なかなかやるやん」
おそらく、彼女の使っている『神成』は、真神が『電光石火』と呼んでいる術と同系統のものだろう。
神経を流れる電気信号へ干渉し、反応速度を引き上げている。
「でも、そろそろきつくなってきたやろ?」
伊鳴の言う通りだった。
鍵による攻撃自体は、どうにか防ぐことができる。
だが、衝突するたびに氷を貫いて電撃が腕へ走り、指先の痺れが次第に強くなっていた。
『無駄だよ、雨練の末裔』
閃狐と呼ばれた式神の声が、頭の中へ響く。
『本家たる伏見の眷属に、いかに三大稲荷の一つとはいえ、分家にすぎぬ笠間の眷属が敵うものか。そもそも、水が雷に勝てるはずもなかろう』
『……お主は昔からそうじゃ。本家以外の妖狐を見下すのはやめい』
狐雹が不機嫌そうに言い返す。
『涼。こやつらに思い知らせてやれ』
おれも、あの狐の物言いには腹が立つ。
けれど、こちらが劣勢なのは事実だった。
痺れは腕から肩へ広がりつつある。このまま打ち合いを続ければ、先に手裏剣を握れなくなるのはおれだ。
(でも、そうだな)
上手くいくかは分からないが、試してみる価値はある。
「確かに、水が雷を上回るのは難しいだろうさ。でも、おれはただの水使いじゃない」
おれは伊鳴を見据えた。
「氷使いだ。その真髄を見せてやるよ」
手にした水晶を掲げ、不敵に笑った。




