第93話 巻物探妖其の陸
『こちら穂月。相手チームと遭遇。これより戦闘を開始する!』
「あちこちで状況が動いているね。みんな、血の気が多いなぁ」
穂月の宣言を無線越しに聞き、わたし、笹舟喩能はそう呟いた。
蜘蛛糸に拘束された直後、無線で仲間に救援を求めた。身動きの取れない今は、状況を感知するくらいしかできない。
(いや、こっちもすぐに動きそうだね。進展か後退かは分からないけど……)
「ふふ、引っ掛かっとるね」
そう言って現れたのは、蜜柑色の髪をした少女だった。
(確か、狭山悠依だっけ)
「戸隠学園の奴らも、大したことなかね。やっぱり、うちらには及ばんばい」
狭山は、農作業に使うような鋤を手に笑った。
「随分と格付けに必死だね。そんなに自信がないの?」
「何ね? あんたに何が分かると?」
狭山は、わたしの挑発に簡単に怒った。
「いろいろ分かるよ。例えば、君の属性は獣。能力は蜘蛛糸を創り出すこと」
身体に絡み付く糸へ目を落とす。
「ふうん。これ、蜘蛛の糸なんだ。なんか気持ち悪い」
「なんでそこまで分かっとうと? ……まあ、どげんでもよか。あんたはもう逃げられんけん」
「確かに、拘束力はあるね。でも、これくらいでわたしを倒せるとでも?」
「そんな格好で威張っとっても無駄ばい。これから、うちがゆっくり――」
(やっぱり、わたし達への対抗心が強すぎる)
巻物探妖では、相手を倒すことは勝利条件ではない。
わたしを拘束したのなら、こんなところで問答せず、巻物を探しに行けばいいのに。
「だから、足を掬われるんだよ」
「何を言っとう?」
狭山がじりじりと間合いを詰める。
その時、頭上で風を切る音が響いた。
「よっ、間に合ったかな!」
痩身の少年、漣蒼茉が狭山の背後へ飛び込んでくる。
「……誰ね、あんた!」
狭山が振り返るより早く、漣は飛去来器を投げ放った。
鋭く回転する飛去来器がわたしの周囲を弧状に飛び、身体を縛っていた蜘蛛糸を次々と断ち切っていく。
「笹舟さん、大丈夫かい?」
「ありがとう。助かったよ……」
「くっ、調子に乗っとったら、後悔するばい!」
狭山は鋤を素早く構え、漣と対峙する。
新たな蜘蛛糸が、木漏れ日を受けて淡く光りながら、周囲に張り巡らされていった。
「ここからが本番だね」
漣も飛去来器を構える。
「あんだは、オイラが相手をしてやるよ」
狭山の動きを見逃すまいと、漣は真っ直ぐに彼女を見据えた。




