第91話 巻物探妖其の肆
「これ、助太刀に行った方がいいよね……」
トランシーバーで折霜に接敵を伝えたわたし、笹舟喩能は、一人そう呟いた。
巻物探妖の開始後、演習林へ入ったわたしは、木の幹に背を預け、目を瞑ったままずっと座っていた。
光を放つ玉髄を握り締め、赤撞木鮫の式神を呼び出す。
その力で能力を増幅し、演習林内にいる人間の位置を把握していた。
「蝉、邪魔……」
厄介なのは、演習林内を飛び回る蝉の式神たちだった。
通常の式神は、わたしの電磁波感知には引っ掛からない。
けれど、こいつらは雷属性を備えているらしく、人間と同じように感知できてしまう。
おかげで、拾わなければならない反応が一気に増えていた。
(人と蝉の区別は、気を付ければできる。でも、疲れるなぁ)
今のところ、他に敵と遭遇した仲間はいない。だから折霜のところへ向かうのが上策だろう。
「どうして、わたしがこんなことをしなくちゃならないんだろう……」
いや、本当は分かっている。
保健室登校で、まともに授業へ出席していないわたしが単位を貰えているのは、極めて特例的な措置だ。
わたしの能力と、その特性を認められているからこそ。
だから、学園側からこうした要請があれば、断ることは難しい。
(体育祭は、理由をつけてサボれたけど……)
今の扱いを取り消されれば、不特定多数の人間が入り交じる教室へ戻らなければならない。
わたしにとって、それはほとんど不可能だった。
(そういう意味では、わたしはもう認められているんだよね)
そこで、ふと真神雷哉との会話を思い出す。
誰かに認めてもらうために、無理をする必要はない。
けれど、認められなくなった時のことを考えないわけにもいかなかった。
わたしの場合、それは致命的な問題になりかねない。
そんなことを考えていたのが、いけなかった。
折霜のいる場所へ向かう途中、不意に身体が引き止められる。
(迂闊だった。わたしの能力では、こういう無生物は探知できない)
気づいた時には、もう手遅れだった。
目を凝らして、ようやく見えるほどの極細の糸。それが幾重にも身体へ巻き付き、わたしの動きを封じていた。
「まあ、仕方ないか……」
(こういう割り切りの早さが、彼には理解できないんだろうね)
そう思いながら、わたしは力を抜き、静かに目を閉じた。




