第90話 巻物探妖其の参
「鬼霰! こいつら、鬱陶しいなぁ」
演習林内を飛び回る蝉の式神を、氷の礫で次々と撃ち落としていく。
巻物探妖の開始後、仲間と別れて演習林へ入ったおれ、折霜涼は、巻物を持つ式神を探していた。
『二時の方向と、十一時の方向から気配を感じるぞ』
「サンキュ、狐雹。行くぞ」
もちろん、おれ自身に式神を探知する能力はない。狐雹の助けを借りる必要がある。
どうやら媒介石である水晶に力を込めて呼び出せば、彼女も式神扱いで召喚できるらしい。
おれの隣では、妖狐の狐雹が青白い光を纏った銀狐の姿で浮いている。
「見つけた!」
狐雹の示した方向へ進むと、青く輝く巨大な伊勢海老の式神が佇んでいた。
「鬼氷柱ぁ!」
おれは懐から棒手裏剣を抜き、氷を纏わせながら飛び上がる。
狐雹の力で術が増幅されたのだろう。棒手裏剣を覆う氷は普段よりも大きく膨れ上がり、巨大な氷塊となって伊勢海老の頭上へ叩きつけられた。
式神は呆気なく押し潰され、霧のように姿を消す。
その場には、一巻の巻物が残されていた。
「巻物入手完了! 案外、呆気ないな」
『油断するでない。敵は式神だけではないじゃろう?』
おれの呟きを、狐雹が窘める。
『折霜くん。そちらに相手チームの一人が向かっているよ』
そこで、左腰に提げた無線機から喩能の声が聞こえた。
「噂をすれば、だな」
苦笑するおれの前に現れたのは、狐色の髪をした少女だった。
おれより背が高く、吊り気味の細い目をしている。その顔には、薄い笑みが浮かんでいた。
甲賀学園の制服を着ている以上、敵であることは言うまでもない。
「なんや、もう巻物を手に入れてはるやん。ほな、おどれを倒したら、それもいただけるなぁ」
しかし、おれの視線は、不遜にそう言う少女ではなく、その隣へ向いていた。
そこには、黄色い光を放つ、金色の毛並みを持つ狐の式神が浮かんでいる。
『誰かと思えば、狐雹ではないか。久しいな』
おれの視線に反応したわけではないだろうが、その狐が口を開いた。
『伏見の閃狐か。確かに、しばらくぶりじゃのう』
閃狐と呼ばれた式神に、狐雹が答える。
その声音は、明らかに不愉快そうだった。
「うん? 知り合いなん、セン」
『ああ。奴は空狐で、笠間稲荷の使い。そして麻呂の昔馴染みさ』
閃狐がおれへ視線を向ける。
『つまり、あの餓鬼は、お前と同じく稲荷巫女の家系を継ぐ者なのだろう』
「ふーん、偶然……それとも、神さんのお導きやろか」
少女は笑みを深くする。
「あたきは伊鳴篠。伏見稲荷大社の巫女や。よろしゅうな」
伏見稲荷の巫女か。
確かに、合縁奇縁といったところだろう。
「おれは折霜涼。笠間稲荷に仕える雨練家の血を引く忍びだ」
おれは見得を切り、手裏剣を構えた。
「いざ、参る!」




