第88話 巻物探妖其の壱
10月29日、土曜日。
ついに、学園対抗戦の日を迎えた。
戸隠学園の校舎群、その南西に位置する未申訓練場。
そこには甲賀学園から訪れた各学年の代表生徒十五名と、引率教員三名の計十八名が集まっていた。
対する戸隠学園側も、俺、穂月錬次をはじめとする代表生徒十五名に加え、教員陣と数名の保健委員が待機している。
「甲賀学園の皆様、本日は戸隠学園へお越しいただき、誠にありがとうございます」
両校の生徒が見守る中、玄冬生徒会長が挨拶を始める。
「この学園対抗戦が、互いの技を競い、磨き合う有意義な機会となることを願っています。それでは、一年生の試合から始めましょう」
その言葉を受け、戸隠学園と甲賀学園の一年代表、計十名が向かい合った。
強化合宿の後、紆余曲折(最終的に槌屋との将棋対決になった)の末に一年代表のリーダーとなった俺は、甲賀側のリーダー格と思われる女生徒と対峙する。
蜜柑色の髪と、頬に散ったそばかすが印象的な少女だった。
彼女はこちらを真っ直ぐに見据え、左手を差し出す。
握手を求められたのだと思い、俺もその手を握った。
「うちは甲賀学園一年応龍組、狭山悠依。あんたら東んもんに、うちらの強さば見せちゃるばい」
名乗ると同時に、狭山は俺の手を潰さんばかりの力で握り締めた。
「俺は戸隠学園一年青龍組、穂月錬次だ。こちらこそ、君たちに俺たちの強さを見せてやる」
俺も負けじと握り返し、笑みを浮かべる。
「ふふっ。両者とも、やる気は充分なようだね。では、早速始めようか」
そこで、中学生ほどにしか見えない黒髪の小柄な女性が、俺たちの前へ進み出た。
「この私は、戸隠学園三年玄武組担任、玄冬氷冥。第一試合を取り仕切らせてもらうよ」
玄冬先生は、周囲に控える教員たちへ視線を送る。
「教員の皆さん、手筈通りに」
その言葉を受け、戸隠学園と甲賀学園の教員、合わせて六名が、それぞれ懐から媒介石を取り出した。
石が色とりどりの光を放った次の瞬間、訓練場に異様な光景が広がる。
蒼鷺、月の輪熊、日本蜥蜴、伊勢海老、蚯蚓。さらに、種々の蝉。
いずれも実物の数倍はある、巨大な式神たちが姿を現していた。
「第一試合の名称は、巻物探妖」
玄冬先生が、いつの間にか手にしていた五つの巻物を掲げる。
「この式神たちが守る巻物を、相手チームより多く集めた方の勝利さね」
そう告げると、玄冬先生は五つの巻物を式神たちへ放り投げた。
蒼鷺、月の輪熊、日本蜥蜴、伊勢海老、蚯蚓の式神が、それぞれ一つずつ巻物を飲み込む。
「此奴らは具現式神だ。ある程度の損傷を受けると消滅し、飲み込んだ巻物をその場に残す。遠慮なく攻撃して構わないよ」
「えっと、あの蝉は?」
俺は玄冬先生に尋ねる。
式神の中で唯一、無数に存在する蝉たちは、巻物を飲み込んでいない。
そもそも、あの管のような口で巻物を飲み込めるとも思えなかった。
「ああ。蝉の式神は、お邪魔役のようなものだよ」
「お邪魔役?」
「巻物は持っていないけど、君たちの捜索を妨害するために放たれるのさ」
「なるほど、そういうことですか」
「制限時間は一時間。試合範囲は演習林全域とする」
玄冬先生がそう告げると、教員たちの指示を受けた式神が、一斉に演習林へ向かって動き出した。
巨体が次々と木々の奥へ消えていく。
「それでは両チーム、引率の教員と共に開始位置へ移動しなさい」
学園対抗戦、俺たち一年の試合が始まろうとしていた。




