第84話 緋鞠杜燃
「協力して料理を作るっていうのは、悪くないと思うけど……それくらいで、あの五人の仲が深まるかな?」
僕、風見宙飛は、サラダに使う野菜を洗いながら呟いた。
勿朽流華は、緋鞠杜燃によって旧校舎内に設けられた臨時保健室へ運ばれている。
勿朽を除いた補欠の四人は、破竹灯篝を筆頭に、順調にカレー作りを進めていた。
香辛料の匂いが辺りに漂っている。
カレーは好物のはずなのだが、今は食欲よりも勿朽の容体の方が気になった。
「別に、チームの仲が良い必要はないのよ」
背後から返事が聞こえた。振り向くと、臨時保健室から戻ってきたらしい緋鞠が立っていた。
「……勿朽さんは大丈夫なんですか?」
「今は落ち着いて眠っているわ」
緋鞠は、何でもないことのように答える。
「わちきの炎は傷を癒やすけど、その分、治療を受けた人の体力も消耗するの。しばらく休ませておいた方がいいわね」
「そうですか……」
「でも、あの娘は人より傷の治りが早いみたい。普通なら数日は動けない傷だけど、明日には歩ける程度まで回復していると思うわよ」
「人より、治りが早い……?」
少し引っ掛かる言い方だった。
「それで、仲が良い必要はないというのは、どういう意味ですか?」
だが、少なくとも命に関わるような状態ではないらしい。そのことに安堵し、僕は話を戻す。
「そのままの意味よ」
緋鞠は、代表チームの方へ視線を向ける。
「互いの実力や個性を認めて、必要な時に適切な連携を取れればいいの。多少仲が悪くても、それは大した問題じゃないわ」
「……確かに、そうですね」
僕ら補欠チームも、仲が良いとは言い難い。
破竹灯との間には、勉強を教えたことで多少は険悪さが薄れたものの、まだ蟠りが残っている。
深林坊とは武器を見繕ってもらって以来、ほとんど話していなかった。
勿朽に至っては、考えるまでもないだろう。
真神と勿朽以外は、互いにほとんど面識もなかったはずである。
(……考えてみれば、真神以外は、他人への関心が薄い人ばかりな気がする)
「君たちを見ていると、昔を思い出すわ」
緋鞠が懐かしそうに目を細めた。
「わちきたちも、強化合宿で料理をさせられたのよ。玄冬くんは良いところのお坊ちゃんだから味にうるさいし、風切さんはよく分からない生薬を入れ始めるし、大変だったわ」
「よく完成しましたね……」
「まあね。でも、誰に何を任せればいいのかは、あの時によく分かったわ」
緋鞠は得意げに胸を張る。
「そうそう。わちきは炎を熾す役だったわね」
「ところで、緋鞠先輩はここで何をしているんですか?」
僕は、いつの間にか緋鞠が両手に匙と椀を持っていることに気づいた。
「手伝わないとは言ったけど、味見をしないとは言っていないわよ?」
悪びれもせず、彼女は笑う。
「わちきもご相伴にあずかろうと思ってね」
「先輩たちは、昼食を持ってきているんじゃないんですか?」
少なくとも笹舟理界は、僕たちを監督しながら、自前の笹かまぼこを食べている。
少し離れた場所では、笹舟喩能が恨めしそうに兄の笹かまぼこを見つめていたが、見なかったことにしよう。
「カレーが完成したぞ。って、緋鞠先輩もいるのかよ」
そこで、破竹灯が僕らのもとへやってきた。
「さすが破竹灯くん。美味しそうなカレーね」
「……仕方ねぇから、あんたにも食わせてやるよ」
「やったね。破竹灯くんを補欠選手に選んで良かったわ」
「あんた、俺様の料理目当てで補欠選手を決めたんじゃないだろうな?」
「いやいや。ちゃんと戦闘力も考慮したわよ」
「『も』って、料理で選んだことは否定しねぇのかよ!」
緋鞠と破竹灯の遣り取りを、僕は黙って聞いていた。
(この人、料理を任せるのが不安だったから、火の番をさせられていたんじゃないか?)
ふと、代表チームの方へ目を向ける。
そこには、悲しそうな顔で炎を見つめている錬次の姿があった。
(……今の錬次みたいに)
彼を見ていると、妙に物哀しくなったので、僕はそっと目を逸らした。




