第82話 集団戦其の捌
僕、風見宙飛が勿朽流華のもとへ駆けつけた時には、槌屋堆志との戦いはすでに決着していた。
地面に座り込んでいる勿朽。その傍らで彼女を支える真神雷哉。そして、槍を下ろして険しい顔をしている槌屋。
三人の様子を見れば、何が起きたのかはおおよそ察しがついた。
「勿朽さん、その傷、大丈夫?」
僕は勿朽へ駆け寄った。
彼女は水で濡らした手拭いを使い、腕や脚に付いた土を拭っている。布が肌を滑るたび、その下から痛々しい打撲痕や擦り傷が露わになった。
「別に、これくらい平気……」
そう言いながらも、傷に触れたらしく、勿朽は僅かに顔を歪める。
平気なはずがないが、ひとまず急を要する状態ではなさそうだった。
「……真神くんの方は、どうなったの?」
僕が尋ねると、真神は勿朽を支えたまま答えた。
「作戦通り、笹舟さんを倒した後に、ここへ加勢に来たんだ。そっちは?」
「涼、錬次、蒼茉は倒せたよ。深林坊と破竹灯も無事だ」
「ということは……えっ?」
真神が目を見開く。
「ぼくら、代表の人達に勝ったの?」
「その通り。補欠の面々は、よく健闘したわね」
後方から聞こえた声に振り向く。
模擬戦の様子を見回っていたのだろう。緋色の髪をした女生徒、緋鞠杜燃がこちらへ歩いてきていた。
「勿朽さん、酷い怪我ね。わちきが治療してあげましょう」
緋鞠先輩は勿朽の前に屈み、その右腕をそっと取る。
次の瞬間、緋鞠の左手に淡い炎が灯った。
そのまま、炎に包まれた掌を勿朽の傷へ近づける。
「ちょっと待ってください! 焼いて傷を塞ぐなんて、無茶すぎますよ!」
真神が慌てて声を上げた。
「大丈夫よ。これは傷を焼くための炎じゃないから」
緋鞠は笑いながら、炎を勿朽の腕へ当てる。
「わちきの炎は、肉体の治癒力を高めるの。すぐに完治するわけではないけれど、痛みや腫れも多少は引くはずよ」
「……うん。あまり熱くないし、痛くもない」
勿朽は自分の腕を見ながら、少し驚いたように呟いた。
その表情を確かめてから、僕は槌屋へ目を向ける。
「何だい。何か文句でもあるのか?」
視線に気づいた槌屋が、僅かに眉を寄せた。
「当方は競技の規則に従って戦っただけだよ」
槌屋は槍を肩に担ぎ、淡々と続ける。
「別に、槌屋くんを責めるつもりはないよ」
これは嘘ではない。槌屋の言う通りだ。これは模擬戦であり、勿朽もそれを承知した上で戦った。
(責めるべきなのは、もっと早く駆けつけられなかった僕だ)
いや、それだけではない。勿朽に槌屋の足止めを任せたのは、他でもない僕だった。
作戦は成功して、僕らは代表に勝った。
けれど、その勝利のために勿朽がここまで傷ついたのだと思うと、素直に喜ぶ気にはなれなかった。




