第76話 集団戦其の弐
「……さて、明日はどうしようか?」
ぼく、真神雷哉がおずおずとそう切り出す。
集団戦前日の夜。ぼくたち補欠の五人は旧校舎の一部屋で作戦会議をしていた。
ぼくらの他に、監督役として風切先輩も加わっている。
「作戦会議と言っても、相手が代表じゃ己らに勝ち目は薄くないか? それに、もしも勝った所で、己らが代表になる訳では無いんだろう? 当て馬じゃあ、やる気も出ないよね」
「そう言うものでは無い。確かに彼らは強いが、欠点もある。それに君達だって、曲りなりにも僕たち生徒会の面々に選ばれたのだし、十分勝ち目はあると思うよ」
深林坊がそう切り出すと、風切先輩がそれを窘める。
「え⁉ 生徒会がぼく達を選んだんですか?」
「うん。代表の五人は教員からの推薦によるけれど、補欠は例年、生徒会が選ぶことになっている。生徒会の五人が、それぞれ一人ずつ推したんだ」
風切先輩は、指を折りながら続ける。
「玄冬会長が勿朽さんを、緋鞠副会長が破竹灯くんを、真神書記が雷哉くんを。そして僕が選んだのは、風見くんだよ」
「ん? 己は誰が選んだんです?」
風切先輩に唯一名を呼ばれなかった深林坊が尋ねる。
「白秋庶務は鹿深くんを選んだのだけど、彼は体育祭の時に負傷してしまったからね。深林坊くんはその代わりだよ」
「己だけ補欠の補欠なのかよ! ……よし、この何とも言えない気持ちを代表の奴らにぶつけよう」
「そうだね。ただ当て馬になるのも癪だし、ぼくも彼らに一泡吹かせたいよ」
兄さんがぼくを選んだ。その事実に複雑な思いを抱きながら、ぼくは言う。
「……と言っても何か策があるわけじゃないけど。風見くんはどう思う?」
締まらないまま、ぼくは隣の風見に振る。いまいち底が知れない彼なら、何か案があるかもしれない。
「うーん、相手の紙玉を割ることが出来れば勝てるんだから、わざわざ真正面から戦う必要はないよね。隠密に徹すれば勝機はあるかもしれない。ただ、そうなると笹舟さんが厄介かな……」
笹舟喩能。
笹舟先輩の妹だという彼女の能力は確かに脅威だ。おそらくだけど笹舟先輩がかつて言っていた劣等感、その原因は彼女な気がする。
(そりゃ、あんな途方もない妹がいれば兄としては忸怩たる思いだろう)
でもそんな理由からあの人が、ぼくに電光石火の使い方を教えてくれたのなら、ぼくは彼女に感謝するべきかもしれない。
(そう言えば笹舟先輩は実戦ではほとんど使わないと言っていた。なのに、どうして電光石火について人に教えられるほど習熟していたんだろう?)
それが喩能の能力と関係があるのなら……
「もしかしたら、電光石火を使えば笹舟さんの読心術を無効化できるかも」
ぼくの発言に風見が首を傾げる。
「電光石火って神経に電流を流して反応速度を上げる術だったよね。なんでそれで……ああ、成程。彼女が相手の電磁波を読み取って思考を読んでいるのなら、その状態は雑音となるのか」
「確かにそれなら、予測の妨害ができるのか」
深林坊も納得したように頷いた。
「じゃあ、その前提で作戦を建てようか。笹舟さんは真神くんに任せるとして……もう一つ、涼と錬次の二人は息の合った連携を取れるから厄介だね。けど、そこを崩せれば勝機は見えるよ」
風見はそう言って薄く笑った。
「……大体こんな感じかな。細かい箇所は各々の判断に任せるとして、勿朽さんと破竹灯くんも、これで大丈夫?」
戦術の概要を話し終えた風見が、黙って聴いていた二人におずおずと尋ねる。
「勝てる可能性があるんなら俺様も文句はねぇ。風見、この中でお前が一番、頭が良いんだろう? なら従ってやるよ」
「学業の成績と頭の良さは、必ずとも比例する訳じゃ無いけどね……」
破竹灯の言葉に風見は卑屈に応える。因みに、この五人の一学期末学力試験の総合点は、風見 > 深林坊 > 勿朽 > 真神 > 破竹灯の順で高いらしい。
「私もそれで異論は無いよ。風見くんの戦闘力は兎も角、戦術眼は悪くないと思っているし」
「……そう、ありがとう」
勿朽のその言には風見は微妙な顔をして静かに笑んだ。
(多分、『戦闘力は兎も角』って言われて凹んでいるのだろうな)




