第72話 清流涸らす陽光
(流石に強いね、蒼茉は。僕もあれくらい動ければなぁ)
僕、風見宙飛のそんな思考に構わず、風切が第三試合の開始を告げる。
「次の試合は穂月錬次と勿朽流華、前に出てください」
錬次は普段通りの冷静な面持ちで、腰に差した日本刀の柄に軽く手を添えている。
勿朽は、手に持った水晶の欠片を胸元に掲げている。水晶が妖しく光る。立ち込めた霧の中から漆黒の影が蛇の形を取り、彼女の左手に巻きつく。
「始め!」
風切の掛け声の後、勿朽が即座に術を発動した。烏蛇の式神が彼女の術を増幅し、巨大な水流が勢いよく錬次に迫る。
「鬼灯火斬」
錬次は落ち着いて日本刀を抜き放ち、炎の斬撃を放つ。
火と水が激しくぶつかり合い、一瞬で視界が蒸気で白く染まった。
勿朽はその隙を逃さず、素早く間合いを詰める。そして右手に持った櫛の形をした刃物で錬次に近接戦を仕掛ける。
錬次は刀を使ってそれに応戦するが、この間合いでは日本刀の特性を殆ど生かせないだろう。
堪らず錬次は距離を取るが、それに対して勿朽は遠距離の水流攻撃を繰り出す。
(なるほどね、近接では櫛による攻撃、遠距離は水流による攻撃。それを駆使することで錬次の打刀が得意とする中距離での戦闘を避けているのか)
勿朽は玄武組の中では傷代、鹿深に次ぐ実力者だ。単純な戦闘能力なら僕よりも遥かに高いだろう。
(だが、その程度じゃ錬次は倒せないだろうね)
「仕方ないな」
そこで錬次は突然日本刀を放り捨てると、素手で勿朽の櫛を待ち受ける。
その意外な行動に勿朽が一瞬、動揺したのを見逃さず、錬次は勿朽の攻撃の勢いを利用して合気の投げ技を繰り出した。
剣術を主に使う為あまり知られていないが、錬次は合気道や空手道の段も持っている。だから彼を相手にする時は、剣を封じるだけでは不十分だ。
「そこまで、第三試合の勝者は穂月錬次」
地面に倒れ、制された勿朽を見て風切がそう告げた。




