第66話 秋の下で
10月1日、土曜日。
抜けるような秋空が、戸隠学園の戌亥訓練場に広がっていた。
早朝から僕、風見宙飛は、訓練場で式神の術を練習している。
すでに何度も挑戦していたが、成果はまったく出ない。
「また駄目か……」
僕はため息混じりに翡翠を握りしめた。
何度やっても、翡翠の中で風が散っていくばかりだった。
焦りと疲労が混ざり合う。
額から滴った汗が、乾いた地面に落ちた。
陽もだいぶ高くなってきた頃、訓練場の入り口付近から賑やかな声が響いてくる。
「あっ、かざみん! 朝っぱらから頑張ってるなぁ! おはよーだぜ!」
声の主は、白と黒が混じるまだら髪の少年、千峩白牙だった。
いつもの明るい笑顔を浮かべ、手を振りながら駆け寄ってくる。
そのすぐ隣には、葡萄色の髪をした少年、破竹灯篝もいた。
破竹灯は相変わらず不機嫌そうな表情で、僕をじっと睨みつけている。
「おはよう、千峩くん。それから……破竹灯くんも」
僕は微妙な気まずさを覚えながら挨拶を返した。
「あの時はごめんね。怪我とか、大丈夫だった?」
先日の攻城戦線での一件が、まだ僕と破竹灯の間に残っていた。
「はっ、あの程度、どうってことねーよ。あんな小細工で俺様に勝ったと思うなよ」
破竹灯は腰の拳銃へちらりと手をやり、挑発的な視線を僕に向ける。
「待った待った、はっち! もう体育祭は終わったんだからさ、ここで喧嘩するのは無しだぜ。な?」
その様子に危険を察知した千峩が、すかさず僕ら二人の間へ飛び込んだ。
「チッ。……だがよ、こいつが奇妙な爆発で俺様を嵌めたのは事実だ」
破竹灯は苛立ちを隠さず、僕を睨みつける。
「奇妙な爆発って、かざみん何したの?」
一方、千峩は興味津々に首を傾げた。
僕は軽く肩を落として、説明を始める。
「小麦粉みたいな細かい粉が空気中に広がっているところで火がつくと、爆発的に燃え広がることがあるんだ。僕はそれを利用して破竹灯くんを倒したんだけど……」
「へえー、かざみん頭いいな! 補習を抜け出してきた俺っちとはっちとは大違いだね」
千峩が笑いながら言うので、僕は嘆息した。
「いや、ちゃんと補習は受けなよ」
「だって、つまんないんだもん。そうだ! かざみんが代わりに教えてよ! なぁ、はっち」
千峩は目を輝かせながら頼み込んでくる。
「なんで俺様がこいつに教わらなきゃならねぇんだ」
破竹灯はますます不機嫌になり、小さく呻いた。
「だってさ、はっち。その、粉じん爆発ってやつでやられたってことは、かざみんに理科の知識で負けたってことじゃん?」
「うるせえ。理科ができようができまいが関係ねぇだろ」
破竹灯が怒ったように言い放つ。
「いや、実際にそれで負けてるじゃん」
だが、千峩は楽しそうに笑って続けた。
「……っく、分かったよ。俺様が直々に聞いてやる」
「……僕の意見は?」
それから一時間後。僕は、式神よりも手強いものがこの世にあることを知った。




