第64話 ぼくがぼくであるから
「ここは……?」
ぼく、真神雷哉が目を覚ますと、まず黒い天井が目に入った。
「玄武組の臨時保健室だ」
「気が抜けたんだろう。あの後、真神くんは気を失って此処に運ばれたんだよ」
ぼくの呟きに、すぐ答えが返ってくる。見ると、そこにいたのは傷代と鹿深だった。
「攻城戦線は、結局どうなったの?」
「今、笹舟先輩が実行委員に確認している」
「だけど、真神くんが捕まらなかった以上、玄武組が最下位ってことはないだろうね」
「そう……」
それを聞いて、少しだけ息が抜けた。
「結果が出たぞ。朱雀組が一位、青龍組と玄武組が同率二位、最下位が白虎組だ」
そこで、部屋に入ってきた笹舟先輩が端的に告げた。
(同率二位。兄さんの組と同じ……)
「……貴様の奮闘で獲得した成果だ。よくやったな、雷哉」
「……ぼくなんて、みんなが助けてくれなければ、すぐに捕まっていましたよ」
笹舟先輩の労いを素直に受け取れず、ぼくはそう零した。
「ふむ……雷哉」
「あー、悔しいなー!」
笹舟先輩が何か言いかけた、その時だった。
大音声と共に、包帯を乱雑に巻いた穂月燐峯が部屋へ入ってくる。
「穂月先輩……?」
「うん、やっぱり、雷哉くんは光夜とは少し違うみたいだな」
穂月先輩はこちらに気づくと、ぼくをじっと見つめた。
「そりゃ、ぼくは兄さんよりもずっと劣っていますよ……」
「あん? あたしが言いたいのは、そういうことじゃねぇって! なんて言うのかな……」
「光夜が軍勢を率いる将としての強さなら、雷哉は将棋の玉将のような強さだ」
「あー、そうそう。そんな感じ」
適切な言葉を思いつかないようだった穂月先輩の代わりに、笹舟先輩がそう告げる。
「それって、どういうことですか?」
「玉将は、盤上で最も強い駒ではない。だが、玉が詰められれば負ける。故に周囲の駒は、玉を守るために動く。貴様には、それに近いものがある」
「ぼくに……?」
「貴様のために、周りが支え、奮闘してくれるということだ。今回の戦いで、傷代や鹿深のような逸れ者も、貴様のために協力してくれたようにな。それが、貴様の強さだ」
「ぼくの強さ……」
笹舟先輩の言葉が示す意味を、ぼくはまだ十全には掴めなかった。
兄さんのようにはなれない。たぶん、これからも。
でも、兄さんになれないことと、ぼくに価値がないことは、同じではないのかもしれない。
纏わり付いていた劣等感を、ぼくは少しずつ、糧にできるような気がしていた。
体育祭総合優勝:朱雀組
体育祭編、終




