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第60話 真神光夜

 朱桂(あかかつら)棟三階。

 朱雀組の司令室として使われている一室。


 大将である玄冬氷筍げんとうひょうじゅんは、静かに椅子へ腰かけていた。

 床には、他組の生徒たちが累々と倒れている。壁際には薄い霜が残り、倒れた生徒の袖や髪先が白く凍りついていた。


「ただいま戻りましたー」

 そこへ、一人の女生徒が入ってくる。


 短く切り揃えた白髪。男子生徒に混じっても目を引く長身。

 彼女の名は、白秋道縷はくしゅうみちる


 その背には、細くしなった金属線でぐるぐる巻きにされた女性が担がれていた。

 緋色の艶やかな髪が頬にかかり、閉じられた瞳はぴくりとも動かない。


 白虎組大将、緋鞠杜燃ひまりともえ

 気を失っているのは明らかだった。


「上首尾に、緋鞠を連れてこられたようだね」

 氷筍が杜燃へ視線を向ける。


風辰かぜたつくんのおかげですよ。彼は今も殿しんがりを務めてくれています。しかし、凄い有様ですねぇ。これ全部、会長がやったのですか?」


 道縷が部屋の中で倒れている生徒たちを見渡す。


「まあね。それと道縷さん、今は生徒会室ではないんだ。会長はよしてくれ」


「そうですか。緋鞠先輩を確保できたことで、朱桂棟にいる大将は二人。朱雀組が優位になりましたね。残りの大将は……」


真神光夜まがみこうやと真神雷哉だね。さて、彼らはどうしているだろう?」




 同時刻。青柳(あおやなぎ)棟三階の一室。


 青龍組の大将である二年生、真神光夜は、侵入者と向かい合っていた。

 玄武組の穂月燐峯ほづきりんねである。


「たった一人でこんな所まで来るなんて、穂月さんは相変わらずだね」

 飴色の髪をかき上げ、光夜が嘆息混じりに言う。


「仕方ないだろ。あたしに誰も付いて来られなかったんだから」

 燐峯は不遜に返す。


「貴方と戦うのは、去年の生徒会選挙以来かな?」

 光夜は言いながら双剣を構えた。


「ようやく、あん時の借りを返せるぜ。……ん? 前に戦った時と武器が違わねぇか?」

 燐峯が光夜の双剣を睨みつける。


 一振りは平凡な短剣。だが、もう一振りは白い牙のような光沢を帯び、一目で業物と分かった。


「十七歳の誕生祝いに、うちの家宝の一つを譲り受けてね」

 光夜は、その一振りを軽く掲げる。


「双剣使いなのに一振りしかくれないとは、けちくせぇ家だな」


「仕方ないよ。もう一振りは、弟のものだからね」


「弟……雷哉くんか。あいつもいい感じだよな。お前に比べりゃ全然だが、あの眼は気に入った。うちの錬次にも見習って欲しいくらいだぜ」


「身内に厳しいね。錬次くんは充分に優秀だと思うけど。現に今年の学園対抗戦に……おっと、これはまだ内密だった」


「あたしが言いたいのは、そういう意味じゃねーよ」

 燐峯は紅い光沢を放つ日本刀を中段に構えた。


「無駄話は終わりだ。邪魔が入る前に、始めようぜ」

 炎を纏った斬撃が、光夜へ迫る。


 だが、届かない。

 炎の刃が振り下ろされるより先に、光夜の短剣がそこにあった。


 速い、というより、来る場所を、初めから知っていたかのような受けだった。


「その反応速度……電光石火か。やっぱり、雷哉くんのそれとは段違いだな」


「当たり前だろう。漸く雷哉も習得したみたいだが、あいつとは年季が違う」

 双剣が雷を帯びる。


 そうして、戸隠学園二年を代表する強者たちの戦いが始まった。

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