第55話 破竹灯篝
僕、風見宙飛は攻城戦線が始まると、白虎組の城である白楸棟へと駆け出した。
最初は、朱雀組の大将である玄冬氷筍がいる朱桂棟を目指そうと考えた。
だが、北に位置する玄楡棟から、南に位置する朱桂棟までは少し遠い。
そもそも運良く玄冬のもとへ辿り着けたとしても、今の僕では敵わない。
五月から多少は強くなったと自負しているが、そこまで自惚れてもいない。
残りは、東にある青柳棟か、西にある白楸棟。
青柳棟へ向かわなかったのは、単なる気まぐれである。
決して、穂月燐峯がそちらへ行くだろうと思ったからではない、はずだ。
玄楡棟と白楸棟の間にある戌亥訓練場では、防衛する玄武組の生徒と、攻め入る他組の生徒が乱闘していた。
怒号。金属音。術が弾ける乾いた音。
そこへ加わる気にはなれない僕は木立の影を選び、人目を避けながら白楸棟へ向かう。
息を殺し、足音を消し、騒ぎの外側をなぞるように進んだ。
やがて、白楸棟の裏手へと辿り着く。
そこで僕は、懐から鉤縄を取り出した。
二階の欄干に鉤を引っ掛け、壁に足を掛ける。
できるだけ音を立てないように登り、窓から中へ滑り込んだ。
(ここは、家庭科室?)
僕が入った部屋には、すべての机に流し台が備え付けられていた。
油と香辛料の匂いが、鼻腔をくすぐる。
机の上には、使いかけの香辛料の瓶と、焦げ目のついた小鍋が置かれていた。
体育祭の最中に、誰が何を煮込んでいたのだろう。
「誰だよ、俺様の縄張りに来る奴は。何しに来た?」
部屋を見回すと、やや小柄な少年が椅子に胡座をかいて座っていた。
葡萄色の髪を後ろに流した彼は、鋭い眼光を僕へ向けている。
彼のことは涼から聞いていた。
白虎組の不良生徒。破竹灯篝。
「えっと、小腹が空いたなぁ、なんて……」
「ああ? 今は料理はねぇ。ていうか、てめぇ白虎組じゃねぇだろ」
そう言って、破竹灯は懐から拳銃を取り出した。
(まあ、そうなるよね)
こちらを向く銃口に背筋が冷えた。
銃は授業での使用が禁止されている。だから、破竹灯のような不良生徒しか使わない。
故に不慣れだが、対処法はある。
「虚実皮膜」
修行の成果を見せる時だ。




