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第54話 攻城戦線

 午前中の種目を終えて昼休憩を挟んだ後、体育祭の最終競技『攻城戦線こうじょうせんせん』が始まった。


「しかし、これはどうにかならなかったんですか?」

 玄楡棟くろにれとうの司令室で、ぼく、真神雷哉まがみらいやは肩から下げられた襷を見下ろして、ため息をついた。


 襷には、太い筆文字で『あんたが大将』と書かれている。


「何かしら大将の目印が必要だからな。文句なら用意した由密に言え」

 笹舟理界ささぶねりかい先輩は、何でもないことのように言う。


「それより、棟内が騒がしくなってきたな。露払いに私は出るぞ」


「えぇっ、笹舟先輩も行ってしまうんですか?」

 思わず、情けない声が出た。


 大将であるぼくが攫われれば、玄武組にとって致命傷になる。

 それは分かっている。

 分かっているからこそ、笹舟先輩が離れるのは心細かった。


「安心しろ。玄楡棟からは出ない」

 笹舟先輩は金色の十手を手に取り、扉へ向かう。


「このまま敵を棟内へ入れれば、司令室まで呼び込むことになる。入口で数を減らす」


 それから、傷代苅砥きずしろかると鹿深珪晶かふかけいしょうを見た。


「傷代、鹿深。ここが最後の守りだ。しばらく頼む」

 二人が頷くと、笹舟先輩は躊躇なく部屋を出ていった。




 足音が遠ざかる。

 それを耳にしながら、ぼくは小さく肩を落とした。


 部屋には、ぼくと、同じ一年の傷代、鹿深の二人が残された。


「真神、大丈夫か? 顔が青いぞ」

 傷代が、ぼくの様子に気づいて問いかける。


「……少し緊張しているだけだよ。でも、ありがとう」

 そう答えたものの、内心は焦燥に駆られていた。


 襷が、妙に重い。喉が乾く。

 双剣の柄に触れた指先が、わずかに震えている。


 失敗は許されない。

 その思いが、胃の辺りをぎゅっと締めつける。


 その時だった。

 窓の外で、何かがきらりと光った。


「伏せろ」

 傷代の声とほとんど同時に、激しい衝撃音が司令室を揺らした。


 窓硝子が一瞬にして砕け散る。

 鋭い破片が、床へ雨のように散らばった。


 慌てて顔を伏せたぼくは、恐る恐る視線を上げる。

 そこには、二つの人影があった。


「こんにちは、真神雷哉くん。君を連れ去りに来たよ」

 一人は、藤色の髪をした女性。音もなく床へ降り立った彼女の周囲には、五枚の手裏剣が浮かんでいる。

 丁寧な口調。けれど、その声の裏には底知れない圧があった。


「………」

 もう一人は、黒髪で色白の青年。

 だらりと垂れた漆黒の鎖が、床の上で蛇のようにうねっている。


 風切栞瑚かざきりかんこ煤御隘路すすみあいろ


 笹舟先輩から事前に教えられた、青龍組三年の要注意人物が、ぼくらの前に立っていた。

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