第52話 穂月燐峯
9月10日、土曜日の午前。
ぼく、真神雷哉が玄武寮虚宿室で風見宙飛とオセロをしていると、突然、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「真神雷哉はいるか?」
扉を開けたというより、押し破る寸前の勢いだった。
栗梅色の毛先が外へ跳ねた、やや長めの短髪。勝気な目に、凛とした佇まい。
女性にしては長身で、制服越しにも一目で鍛えられていると分かる体躯。
現れたのは、二年玄武組の穂月燐峯。
先日の作戦会議で、笹舟先輩に真っ先に突っかかっていた女生徒だ。
「お、風見。久しぶりだな。同じ寮なのに、なかなか会わないね」
穂月先輩が軽く手を上げて挨拶する。
「お久しぶりです、燐峯さん。真神くんに用ですか?」
すると、風見はわずかに肩を震わせ、妙に丁寧な口調で応じた。
「おう、そうそう。攻城戦線の大将が発表されたんだ」
そう言って、穂月先輩は一枚の紙片を差し出す。
そこには、こう書かれていた。
<最終競技『攻城戦線』大将一覧>
青龍組大将:二年 真神光夜
朱雀組大将:三年 玄冬氷筍
白虎組大将:三年 緋鞠杜燃
玄武組大将:一年 真神雷哉
兄さんが大将。
その文字を見た瞬間、ぼくは固まった。
横でも風見が小さく息を呑む。
「青龍組の大将が光夜っていうじゃん。だから雷哉くんと組手でもしようと思ってさ」
ぼくらの動揺など気にせず、穂月先輩はそんなことを言い出した。
「兄さんが大将になったことで、どうしてぼくと先輩が組手をすることになるんですか?」
ぼくは思わず首を傾げる。話のつながりが、まるで分からない。
「攻城戦線で、あたしが光夜と戦う可能性があるからさ。それで、弟の雷哉くんなら仮想敵にできると思ってね。それに、お前が本当に大将を任せるに足るかどうかも確かめられるし」」
「いや、ぼくなんかでは兄さんの代わりになんてなりませんよ……」
気まずさから、ぼくは視線を逸らした。
「あん? 雷哉くんも雷の双剣使いだろ? それなら、光夜と多少は似た動きができるんじゃねーの?」
穂月先輩は、ぼくの言葉を軽く流す。
「似ているだけです」
兄さんのような戦闘能力は、ぼくにはない。
それは、これまで何度も思い知らされてきた。
「細かいことはいい。ほら、行くぞ」
穂月先輩はぼくの腕を掴んだ。
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
抵抗する間もなく、ぼくは部屋の外へ引きずり出される。
「ご愁傷さま……」
背後で、風見の呟きが聞こえる。
その声には、心からの同情が滲んでいた。




