第51話 体育祭
夏休みが終わり、戸隠学園の二学期が始まった。
生徒たちの話題は、九月第三週に行われる体育祭で持ちきりである。
この学園では、生徒は組ごとに四つの寮へ分けられており、体育祭も寮対抗で行われる。
ぼく、真神雷哉も、入学前から体育祭については兄から聞かされていて、ひそかに楽しみにしていた。
九月五日、月曜日の放課後。
一年、二年、三年の玄武組生徒が、玄武寮の自習室に集められていた。
「体育祭の勝敗は、最終競技『攻城戦線』に懸かっている」
三年玄武組の男子生徒、笹舟理界が、黒板の前に立って告げる。
黒板に書かれている規則によると、攻城戦線は以下のような内容の競技だった。
・制限時間は三時間。
・参加者は青龍組、朱雀組、白虎組、玄武組の全生徒。ただし、保健委員は救護係として待機するため、競技には参加しない。
・それぞれの組は、大将を一人選び、事前に申請する。
・参加者は、競技開始まで自分たちの城である青柳棟、朱桂棟、白楸棟、玄楡棟にて待機する。
・競技終了時、自陣の城内にいる大将の人数によって順位を決める。
要するに、ぼくたちは自分たちの大将が攫われないように守りながら、相手方の大将を奪ってくればいいわけだ。
(玄武組の大将は誰になるのかな? やっぱり笹舟先輩?)
「さて、玄武組の大将だが、私からは一年の真神雷哉を推薦する」
笹舟先輩が宣言する。
……はい?
「おいおい笹舟先輩。一年坊にやらせるのは荷が重くねぇか?」
栗梅色の髪に勝気な目をした女生徒が、すぐに抗議した。
「では穂月、貴様がやるか? やるなら城外に出ては駄目だぞ」
「やだよ、かったるい」
「貴様に限らず、二、三年の実力者は血の気が多過ぎる」
「あんたがやればいいだろ」
「大将だと私の能力が活かせない。なので、かいら――代役を立てる」
言って、笹舟先輩はぼくに目をやる。
(今、傀儡って言いかけたよね……)
「そうかよ。その一年を選んだ理由は? 真神家の奴ならそこそこやりそうだが、他にも候補はいるだろ?」
「それは、真神雷哉が臆病者だからだ」
自習室の空気が、わずかに揺れた気がした。
「言っておくが、貶めているわけではない。臆病だからこそ逃げ切れる。もちろん、実力があることは大前提だがな」
臆病者。
そう言われて、胸の奥が少し縮む。
けれど、笹舟先輩の声に嘲りはなかった。
あの人は、ぼくの弱さを見ている。
そのうえで、使えるものとして数えている。
「……あんたがそう言うんなら、適任なんだろうさ。あたしはそいつでいいぜ」
「他に異論はなさそうだな」
笹舟先輩が、ぼくに視線を向ける。その眼光に、反論を許す余地はない。
「それでは雷哉。大将を頼むぞ」
「は、はい……」
楽しみだった体育祭が、一気に憂鬱なものになった。




