第49話 風の斬り方
8月9日、火曜日の朝。
風見家宅の裏山にある、端から端まで駆ければ息が上がるくらいには広い、木々が円く途切れた草地。
そこで僕、風見宙飛は、幼馴染の漣蒼茉と向かい合っていた。
「いつ以来かな、宙飛と戦うのは?」
蒼茉は歓喜雀躍といった表情で、その両手に木製のブーメランを構えた。
「じゃあ、始めるよ」
その僕の言葉を皮切りに、蒼茉が右手のブーメランを投擲して来る。
僕は地面と水平な放物線を描いて飛来するそれを忍者刀で弾く。
その時には蒼茉は次の行動に移っていた。
韋駄天の名に恥じぬ瞬発力で、蒼茉が僕との距離を一気に詰める。
その行動を予想していた僕は一歩だけ後ろに下がる、飛来したブーメランを弾いた忍者刀での迎撃が間に合うように。
それが功を奏し、次いで放たれた蒼茉の左手に持つブーメランによる打ち下ろしを、僕は忍者刀で防ぐことに成功した。
(下がりすぎては駄目だ。遠距離武器の蒼茉に対してそれは愚策)
そう考え、蒼茉が繰り出す連撃を退くことなく捌いていく。
木と鉄がぶつかる乾いた音が、朝の草地に響く。
(ここだ!)
数合と打ち合う中で、僕は反撃に移る。
「風見屍這」
僕は蒼茉の攻撃を受け流し、そのまま彼の首筋に刃を当て……られなかった。
「残念、宙飛」
蒼茉はブーメランで僕の忍者刀を防ぎ、のみならずその左脚で回し蹴りを繰り出す。
「ぐはっ」
たまらず僕は吹っ飛び、無様に尻餅をついた。
「宙飛ほど習熟はしていねぇけど、一応オイラだって風見屍這は教わってっからな。それは効かねぇぜ」
風見屍這の本質は|相手の認識をずらすこと《ミスディレクション》にある。
有体に言えば視線誘導や意識誘導を独特の足捌きと体捌きで行なっているだけだ。
だからその種が分かっている相手には、殆ど通用しない。
その点、蒼茉は風見家分家の漣家、その長子だ。風見屍這の種なんて知り尽くしているだろう。
「やっぱり、風見屍這じゃ駄目だね」
僕は蒼茉から差し出された手を取り、立ち上がる。
「んだな。組手も終わったし、今回の本題に入ろうぜ。その為にオイラは呼ばれたんだろ?」
「うん、始めようか」
蒼茉の言葉に僕は頷いてそう言う。
「風見家のもう一つの秘技『虚実皮膜』の修行を」




