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第48話 漣蒼茉

「ふわぁ……」

 僕、風見宙飛かざみそらとは、欠伸を噛み殺した。


 8月8日、月曜日の夕方。茨城県笠間市にある友部ともべ駅の北口にあるロータリーにて。

 僕は何を表現したのかもよく分からない彫像に背中を預けて佇んでいた。


「おーい、宙飛〜」

 そこで、僕を呼ぶ声がした。

 駅の方から、一人の少年が走ってくる。


 夕日を受けて、適当な長さに切り揃えた鈍色の髪が揺れていた。

 痩せぎすだが、決して虚弱には見えない。

 むしろ、無駄な肉を削ぎ落とした、走るための身体に見える。


 顔立ちは、少し僕に似ていた。

 けれど、その目には、僕にはない自信が宿っている。


「久しぶり、蒼茉」

 僕の幼馴染、漣蒼茉さざなみあおまがそこにいた。


(こいつ、見ない間に身長伸びたか?)

 最近とんと成長が止まってしまった僕は、思わず目を細める。


「ん? オイラの服に何か変か?」


「いや、別に今は変じゃないけど」


 彼の服装は、シンプルなTシャツに短パン、素足にサンダル。

 夏真っ盛りの現在においては、自然なものだ。


 ただ、こいつは冬でも同じような格好をしていた。

 雪の積もった屋外を素足で歩くような奴は、某海賊漫画の主人公か彼くらいだろう。


(今でもそうなのかな。どうでもいいけど)


「何か引っ掛かるが、まあいいや。それにしても、同じ学園に通っているはずなのに、全然会わなかったよな」


「玄武組と朱雀組の教室や寮は離れているからね。でも、『韋駄天いだてん』の噂は届いていたよ」


「そうなん? でもオイラの方にも、お前の名前と『下降噴流(かこうふんりゅう)』の二つ名は届いていたぞ」


 えっ。

 僕、そんな風に呼ばれていたの?


 下降噴流ダウンバースト

 絶対悪口じゃん。


「それはともかく、早速案内してくれよ。オイラは今日を待ち切れなかったんだ」


「修行は明日からだぞ。今日はもう、やらないよ?」


「それもあっけど、宙飛がどんな家で暮らしているか興味あってな」


「風見本家の屋敷と違って、ただの民家だよ。ちょっと遠いけど、バスでも使う?」


「いや、走って行こうぜ。相馬そうまからずっと電車で、身体が軋んでんだ」


 蒼茉は軽く柔軟しながら言う。

 その場で足首を回し、膝を弾ませるだけで、今にも飛び出しそうだった。


「いいけど、加減しろよ。お前が全速力を出したら、僕が追いつけるわけないんだからな」


「分かってるって。軽く流すだけだ」


 そんなことを言いながら、僕らは夕暮れの町を走り始めた。

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