第47話 朝槻依陽
「起きないぞ。どうする?」
「燃やしちゃえば? 凍え死ぬよりましでしょ」
温かい。冷え切った身体が、徐々に熱を帯びていく。
いや。熱い熱い熱い。
焼け焦げる!
「あ、気づいた」
「大丈夫か? 涼」
「大丈夫に見えんのか⁉ 火達磨になりかけたわ!」
おれ、折霜涼は、跳ね起きようとして失敗した。
全身に力が入らない。
辺りを見回す。
錬次、宙飛、フードを被った女性。
そして、凍りつき、両眼を潰されて倒れ伏した蝦蟇。
『肉芝仙の気配は消えたぞ。消滅してはおらんが、肉体が無ければ何も出来んじゃろう』
狐雹の言葉に、おれは安堵する。
「立てるか、涼?」
錬次の問いに、おれは首を振った。
全身の力が抜けて、しばらく動けそうにない。
「仕方ないな。後始末は僕らがやっておくよ。でも、その前に」
宙飛がそう言いながら、腰を抜かして動けないでいる女性へと歩いていく。
「身分証を出して」
女性に対して、宙飛が言う。
(ナンパか? おいおい勿朽はどうした、もう浮気か?)
「は、はい……」
女性は震える手でカードを取り出し、宙飛がそれを受け取る。
「筑波大学、朝槻依陽」
宙飛はカードの文字を確認し、彼女へ視線を戻した。
「身元は控えた。このことを誰かに話したら、分かっているよね?」
宙飛は忍者刀の鋒を彼女の眼前に置きながら、冷たい声でそう告げる。
「わ、分かっています」
「じゃあ、どこかへ消えてよ」
宙飛は彼女の言葉に頷くと、刀を納め、無造作にカードを投げ返した。
「名演技だな」
朝槻が立ち去るのを見届けて、おれは宙飛に言う。
「どこがだ。棒読みじゃないか」
それに錬次が突っ込む。
「はぁ、疲れる。だから人が居るところは嫌なんだ……」
宙飛はぶつぶつ言いながら、蝦蟇の処理を始めた。
宙飛が蝦蟇から蟾酥を取り、錬次がその巨体を荼毘に付す。
しばらくして、ようやく身体の感覚が戻って来て、何とか動けるようになった。
そして、おれ達は山を降りていく。この闘いを糧に更なる高みを目指して。
筑波山の山頂付近。北斗岩と呼ばれる巨岩の側。
手頃な石に腰掛け、朝槻依陽は手帳に何かを書き込んでいた。
「肉芝仙め。せっかく封印を解いてあげたのに、襲いかかってくるとは」
そろそろ日も暮れようという時間のため、その呟きを聞く者はいない。
「小生を依代としたかったのかな? 下手をすると滝夜叉姫みたいに、いいように使われていたかも」
そこで彼女は、不気味な笑みを浮かべる。
「でも、あの三人に出逢えたのは収穫だね」
彼女は楽しげに目を細めた。
「あれは逸材だ、筆が進むよ♪」




