第44話 筑波山
おれ、折霜涼は、灼熱の太陽に照らされながら肩で息をしていた。
(あっちいなぁ)
リュックから水筒を取り出し、中身をがぶ飲みする。
「おぇぇ……」
隣では、風見宙飛が道端で吐いていた。
(もったいない。せっかくの稲荷寿司が)
「……誰だよ、大和駅から走って行こうって言った奴」
虚ろな目で宙飛が言う。
「バス乗ってくのはだるいって言ったの、宙飛じゃね?」
「……歩くという選択肢は?」
「時間がもったいねぇじゃん」
「ふん、修行が足りないな」
長躯の少年、穂月錬次が、そんなおれ達を見て言う。
ぱっと見は涼しい顔をしているが、痩せ我慢をしているのは明らかだった。
(まあ、取り繕う余裕があるだけましか)
遮る物のない田畑の中を通る道に降り注ぐ日差しは、容赦なくおれ達の体力を奪っていき、比較的暑さに強い錬次にも疲労が見える。
「もう少しで落ち着くだろ。そしたら登ろうぜ」
おれは緑が広がる筑波山を見上げながら言った。
麓でしばらく休憩した後、三人は羽鳥深道を登っていた。
昔は馬を通すための道として使われていたらしい。
だが、今は見る影もなく、草と枝が好き勝手に伸びている。
(おれ達みたいな忍びでもなきゃ、なかなかこんなとこ歩けないよなぁ)
そんなことを考えていると、錬次が口を開いた。
「とりあえず登ってはいるけれど、この広い山の中で、どうやって蝦蟇を見つけるつもりだ?」
「これを使うのさ」
おれは懐から、テニスボールほどの大きさの硝子玉を取り出した。
透明な球体の中には水が入っており、その水の中には円錐形の水晶が浮いている。
「何だこれ? 方位磁針っぽいけど」
宙飛が、まだ少し青い顔で覗き込む。
「似たようなもんかな。探妖計っていって、この石が指し示す方向に蝦蟇がいるはずだ」
「へぇ、便利なものがあるね。どういう仕組みなんだ?」
「さぁ。よく分かんないなぁ」
「……まあいいか」
誤魔化せた、だろうか。
別に、そこまで秘密にするようなことでもない。
けれど、こいつのことはあまり話したくなかった。
『嫉妬か? 可愛い奴じゃのう』
おれだけに聞こえる声で、狐雹が笑う。
妖狐である彼女は、おれが物心ついた時からの付き合いだ。
本来は笠間稲荷に住まう狐なのだが、何かにつけておれや母さんに取り憑き、好き勝手にふらふらしている。
この探妖計も、実際のところは狐雹が相性の良い水晶を動かしているだけである。
仕組みも何もあったものではない。
「軽口叩いてないで、ちゃんと探せよ」
二人に聞かれないよう、おれは小声で言う。
『しょうがないのう。お主は妾がいなければ何もできんからな』
「はいはい」
『おっ、見つけたぞ』
探妖計の中の水晶が、くるりと向きを変えた。
円錐の先端が、山道から外れた藪の奥を指している。
水晶は小刻みに震え、まるで見えない何かに引っ張られているようだった。
「あっちだな。行くぞ」
おれは藪の奥へ足を踏み出した。




