↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/146

第43話 折霜天泣

「で、涼を追い払って、何か聞きたいことでもあるんだろ?」

 僕、風見宙飛が事務所に戻ると、折霜天泣《おりしもあまな》は口の端を上げて言った。


「鋭いですね」

 僕の考えなど、お見通しのようだ。


「あたしのスリーサイズかい? 今日の下着の色かい? 恥ずかしいけど仕方ないなぁ」

 僕は肩を落とす。友人の母親と猥談なんかしたくないよ。


「違います」


「照れるなよ。ほんの冗談じゃない」

 調子が狂う。

 なまじ美人なだけに、たちが悪い。


「訊きたいのは、勿朽《くちな》という家系のことです」



 僕は、あの地下室――玄の間の書物に書かれていた内容を話した。

 玄冬家。勿朽家。

 玄武。そして、勿朽の血を引く娘を贄とするという一節。


「あなたも、水を司る家系の巫女だったはずです。何か知っているのでは?」


「勿朽に玄武か。心当たりがないでもないが、あいつに訊いた方がいいかな」

 そう言って、彼女はいつの間にか手にしていた鈴を鳴らした。

 りん、と澄んだ音が事務所に響く。


「畏み畏み申す。九天《くてん》の光、八洲《やす》の恵み、戯雨《そばえあめ》の化身」

 黄金色の長髪を揺らし、彼女は祝詞のようなものを唱える。


「宇迦之御魂神《うかのみたまのかみ》が遣いし御狐《みきつね》よ。払え給い、清め給え、守り給い、幸え給え」

 空気が湿った。そう感じた瞬間、辺りに白い霧が立ち込める。


「我が魂を澄まし、この身を器と成せ」

 霧はすぐに晴れた。けれど、じっとりとした気配だけは残っている。


「お主、勿朽について聞きたいんじゃったか?」

 目の前にいるのは、折霜天泣のはずだった。

 けれど、その眼差しは明らかに別物だった。


「……あなたは、誰です?」

 僕が尋ねると、彼女は唇を歪ませる。


「ほう。妾の意識が天泣ではないと見抜くか。妾は狐雹《こはく》。稲荷に仕える空狐《くうこ》である」


「初めまして。僕は風見宙飛です」


「知っておる。天泣や涼を通して見ていたからの」


「そうなんですか。それで、狐雹様は何か知っているのですか?」


「直接は知らぬ。だが、推測はできる」

 狐雹は鈴を指先で転がしながら、ゆっくりと続けた。


「まず、西の地の大蛇とは、八岐大蛇《やまたのおろち》のことじゃろう。玄武は大陸由来の霊獣ゆえ詳細は知れぬが、似たような話はどこにでもある」


「どういうことですか?」


「お主たちは、これから筑波山に行くのじゃろう? そこの伝承は知っておるか?」


「弁慶《べんけい》の七戻りですか?」


「全然違うわ。滝夜叉姫《たきやしゃひめ》と肉芝仙《にくしせん》についてじゃ」


「滝夜叉姫は、なんとなく。ですが、肉芝仙は知りません」


「遥か昔。父、将門《まさかど》の無念を晴らすため、平良門《たいらのよしかど》は筑波山に住まう蝦蟇の精霊、肉芝仙に力を借りた。だが、御しきれぬ力を前にした時、人はしばしば身内を差し出す」

 狐雹の声が、わずかに低くなった。


「良門は、姉の如月尼《にょげつに》を生贄に捧げた。その結果、肉芝仙に憑かれた如月尼は怪異、滝夜叉姫となったのじゃ」

 生贄。その言葉に、僕の鼓動が少し早まる。


「滝夜叉姫は……結局どうなったんですか?」


「反乱を起こした後、陰陽師に滅されたらしいの」


「……遣る瀬ない話ですね」


「大昔の話じゃよ」

 狐雹は、こともなげに言った。

 けれど、僕にはそれを昔話として片付けることはできなかった。


「それよりも、お主のことじゃ。何か参考になったかの?」


「はい。多少は」


「そうそう。筑波山の蝦蟇も、肉芝仙の眷属じゃぞ」


「そうなんですか」


「もっとも、肉芝仙は八岐大蛇や玄武に比べれば数段劣る物怪じゃ。つまり、その眷属ごときに手こずるようでは、お主の目的は到底叶わんぞ」

 そこで狐雹は笑みを深める。


「……蝦蟇ぐらい、さっさと片付けてこいというわけですか」


「そういうことじゃ」

 なんだか、上手く乗せられた気もするが。

 まあいい、取り敢えず蝦蟇退治と行こうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。